十勝川温泉　三余庵 さんよあん TokachigawaOnsen SANYOAN

「三余庵」は、たった11室の宿。
この規模が、この宿の最大の特長であり、魅力でもある。
全室に温泉風呂が付いているという事は、例え満室時でも、男女別大浴場が、たくさんの人で混みあう事もほとんどない。
この他の客との距離感というか、人の存在を感じさせない静けさを持っているのも、この宿ならでは。

部屋の椅子に座り、窓から見える景色を見ながらの読書もいいし、人恋しくなったら、一階のバーで出向くといい。
北の大地で働くスタッフとの会話は、何よりも旅の思い出になる。

ディナーの後は「バー道草」で・・・

この宿の使い方、過ごし方を分かれば、これ以上の宿はなかなか見つけられない。
まずは、北海道というロケーション。
しかも、明るいイメージの晴天率の高い十勝地区。
空気も美味しいが、何よりも精神的に癒される。
そして、本物の温泉。
部屋の内風呂であれば、自分好みの温度設定にして、好きなだけ温泉浴が楽しめる。
温泉の湯温を自分勝手にできるという事は、温泉通にとって、最高の贅沢なのかもしれない。
料理も、北海道の大型旅館にありがちな、新鮮な素材を前面に出すだけの、大ざっぱな献立は、ここでは出ない。
一品一品、創意工夫をした、渾身の料理が、目の前に運ばれてくる。

晩秋の献立より（焼きウニと本タラバ炭火焼）～2011年11月中旬撮影

この宿の歴史は、まだ新しいが、これからこの建物も、年季が入ってくると、それらしい艶らしきものが出てくるような気がする。
そして、訪れるたびに、新しい発見をするような、そんな新鮮さも持ち合わせている。

この宿を、「大人の隠れ宿」や、「お忍び系の宿」「お篭りの宿」などと、表現するのは少し違うと思う。
もっと、幅広い年齢層に受け入れられる、懐の深さを感じるし、何よりも"品"がある。
そう、やはり、この宿は、旅慣れたご夫婦が良く似合う。
人生の苦楽を共にした男女が、思い出話に花を咲かせる光景が目に浮かぶ。

男女別大浴場・露天風呂～檜風呂

「三余庵」のスタッフに共通しているのは、チェックインの際に気付くある印象。
「こんなに遠くまで、よく来ていただきました。」という気持ちが、言葉で表さなくても、心で伝わってくる。
旅人は、そんな温かいハートを持ったスタッフがいる宿を「いい宿」と言う。
ハードがいかに充実していても、その宿の本当のポテンシャルは、ソフト、つまり"人"によるものが大きい。
「三余庵」は、間違いなく"人"によって、作られ、支えられている珠玉の宿。
もうひとつ、詩的な表現をすれば、一番大切なものをしまいこんだ、小さな宝石箱のような宿。
そして、旅心を掻き立ててくれる、誘惑的で、魅力的な宿なのだ。（JIN）

男女別大浴場・露天風呂～タイル風呂