「草庵秋桜」社長・女将の太田夫妻は、昭和52年からの10年間、由布院で鰻・すっぽん・鯉を用いた川魚料理の飲食店を経営していた。
ひいきにしてくれるお客さんも多く付き、経営状態は良好だったのだが、一つだけ引っかかる点があった。
それは3人いる子供の将来。3人を大学に行かせてやりたいけど、このまま飲食店を続けていたのでは、現実的に無理だということが分かっていたのだ。
なんとかしてあげたいと思案を巡らす最中、なじみのお客さんから「食事を食べたら眠たくなるから、出来ることなら帰りたくない」と言われたことがあった。
そのさりげない一言が、なじみのお客さんのため、そして何より子供たちの将来のために旅館業を営もうという決意につながったそうだ。
こうした経緯で、由布院の地に「草庵秋桜」は誕生した。
前述の「リゾート法」が公布されたのと同じ年の昭和62年の事だ。
屋号の由来は、“どこまでも広がる田園風景の中にある登場した「庵」”と“田園の畦道に咲き乱れていた美しい「秋桜(コスモス)」”から取られた。
創業当時は、現在の離れがある場所に5部屋のみの本当に小さなお宿。
飲食店のなじみのお客さんや、太田夫妻の作る川魚料理を目当てに来る宿泊客で賑わっていた。
しかしながら、旅館業と料理を平行させることは非常に困難だった。特に料理に不安を覚えていた。
それまで飲食店を経営していたものの、川魚料理メインで、旅館らしい洒落た料理は作れない。
このままでこの旅館を大きく発展させる事が出来るのだろうかと常に考えていたという。
がむしゃらに取り組んだ1年間だったが、「無理」という二文字が脳裏に浮かぶ程にまで追い詰められた。
そんな折、衝撃的な出会いがあった。24歳の青年が「料理を教えてやるよ」と、夜中に突然、厨房に現れたのである。
それからの一年、その青年は毎夜毎晩厨房に現れては、和食の基本である出汁の取り方から、彼の知る料理の技術を二人に教えてくれたそうだ。
料理に自信が持てるようになると、一層客足が増した。
以前とは別の意味で、旅館経営と料理人の両立が厳しくなった平成8年9月、ついに外部から料理長を招くに至る。
その料理長こそが、突然夜中に厨房に現れた青年、新江憲一氏だ。
15歳で料理の道を志し、有名料亭「なだ万」などで修行を重ね、就任当時はすでに由布院でその名を知られる存在だったそうだ。
現在、「草庵秋桜」総料理長と由布院料理研究会会長を兼任する彼が料理長に就任するや、料理が美味しい旅館としてそれまで以上にその名が知れ渡る事になる。
その後も順調に客足を伸ばし、平成11年に離れ客室リニューアルを行う。
宿泊客だけでなく観光客の利用が多い「茶寮かすみ草」を改装するなど、細部へのこだわりは常に実行しており、現在の姿になったのは上記した平成11年の事である。
公式HPを見ると、宿泊プランはなく、フレキシブルな3つの宿泊スタイルで予約するようになっている。
「スタンダード」宿泊スタイルは、1泊2食付きで、チェックイン15:00、チェックアウト11:00。半年先までオンライン予約ができる。
予約日の3日前からは、「レイトチェックイン」「ミッドナイトチェックイン」の電話受付が可能となる。
「レイトチェックイン」は、18:00〜18:30にチェックインし、「スタンダード」と同じく豪華な夕食をいただく。もちろん朝食付きだ。
これで「スタンダード」よりもお1人様1,500〜2,000円程度リーズナブルに宿泊することができる。
「ミッドナイトチェックイン」は21:00〜22:00にチェックインできるスタイル。
これなら仕事終わりに宿泊できるので、一日しかお休みのとれない方でも利用ができる。
夕食のかわりに簡単な夜食をご用意。翌朝は通常の朝食か、チェックアウト後に食事処でブランチ「秋桜膳」をいただくか、選択ができる(水曜日と第3木曜日は、昼食がお休みのため、テイクアウトができる「おにぎり弁当」)。
さらにこれら宿泊スタイルに、「3時間ステイ」「6時間ステイ」「9時間ステイ」と3つの日帰りスタイルを組み合わせることが可能。
これにより、自由度の高いホテル型の滞在が可能となったのだ。
例えば、12:00〜15:00 の3時間ステイ(1食付) と、15:00〜翌11:00のスタンダード宿泊(2食付)を組み合わせる事によって、23時間のロングステイが可能となる。
これは、「アーリーチェックイン12:00 1泊3食付」の宿泊と言い換えることができるだろう。
さらに、21:00〜翌11:00のミッドナイトチェックイン宿泊(朝食orブランチ付き) と、12:00〜21:00 の9時間ステイ(2食付)を組み合われば、最大24時間のロングステイが可能となる。
1日目のチェックインが遅い時間のため、仕事帰りにチェックイン。次の日は朝寝坊を決め込んで、お昼12:00にブランチをいただく。
夕食は豪華な懐石料理をご賞味いただき、21:00にチェックアウト。
これは、平日に1日お休みが取れれば可能な宿泊で、朝の弱い夜型人間の方には、最高のタイムテーブルではないだろうか。
2日休みのある方ならば、ミッドナイトチェックインにスタンダードを合わせた連泊スタイルがお勧めだ。
金曜日の仕事終わりに宿に入り、温泉にゆっくり浸かった後、軽く夜食をいただく。翌朝の朝食をブランチに選択しておけば、たっぷりと寝坊ができる。
昼食後に由布院の街を散策した後は、宿に戻ってかけ流しの温泉を心行くまで堪能。そして、絶品の夕食を味わう。
これら「ハイブリッド予約」は、1週間前より申込み可能。
公式HPを見て、宿に直接電話予約のみの設定となっている。
ちなみに、公式HPのネット予約または電話予約のお客には、お得な直接予約特典が付くので、予約の際には公式ホームページを参照して頂きたい。
「草庵秋桜」。なんともこの宿に合う名前だ。
派手さは無く、それでいて控えめで奥ゆかしさも感じるが、秋桜のように美しさも訴えてくる。
この宿が由布院にあることで、由布院という街が好きになった客も多いだろうと推測できる。
個人旅行向け旅館の必須条件となった「貸切露天風呂」「露天風呂付き客室」は、もちろんこの宿には備わっている。
そして6室の「離れ」もある。リーズナブルな料金で宿泊できる一般客室もある。
また旅館宿泊のメインイベントである食事もレベルが高い。
小規模高品位旅館の典型ともいえるこの宿は、女将さんを筆頭に、いかにお客様に寛いで過ごしてもらうかを、常にまじめに、そして真剣に考えている宿だ。
若いカップル、ご夫婦、そして小さなお子様連れのファミリー客、女性グループ、中高年のご夫婦と幅広い客層に支持を受けているのも特筆すべきことかもしれない。
小さい宿ながら、このような広範囲にわたり人気を得ていることは、それはこの宿のバランスの良さに由来している。
顧客満足度の高い宿の典型だ。
由布院の街の散策にも便利なロケーションにあることも、この宿の魅力のひとつだろう。
「草庵秋桜」のような宿に出会ったことは、大げさかもしれないが人生を楽しくしてくれる。
この「草庵」を「別荘」代わりに使える人は幸せに違いないからだ。(J)