温泉宿激戦区の九州、大分県に筋湯温泉がある。大分県といえば由布院、別府などメジャーな温泉地を抱えているが、さらにクルマがあれば30分ほどで、あの熊本県の黒川温泉にも行けるという立地に筋湯温泉はあるのだ。そんな人気温泉地に挟まれながらの地に「山あいの宿 喜安屋」が佇んでいる。 筋湯温泉は、飯田高原(はんだこうげん)エリアにあり、標高1,000mの高地にあるせいか、夏はとても過ごしやすい。
この宿は全室8室の田舎風の離れ形式の宿となっていて、しかもすべてが露天風呂付き客室というところが人気の要因になっているようだ。しかも客室も山里の雰囲気を漂わせているが、実は2006年に新築したばかりなのだ。筋湯温泉の共同浴場である「うたせ大浴場」の近くから、閑静な現在の地に引越したのである。
以前は矢野社長を中心に家族経営的な宿であったが、現在の地に移ってからは従業員を何人か雇い、傍目から見ても筋湯温泉の中でも一、二を争う繁盛旅館のようである。
客室と大浴場、食事処へは屋外通路でつながっている。離れ形式は由布院を彷彿とさせる。露天付きということであるが、お二人様専用の湯宿ではなく、お風呂も客室から独立してあるので家族連れや女性グループにもよく利用されている模様。客室は3タイプあって、4〜6人グループなら2間続きの定員6名の「天」「虹」の客室。2〜4人なら10帖+板間の「風」「空」。2〜3人なら8帖+板間の「花」「山」「月」「星」といったところか。
客室内は土壁と黒く塗った板で黒川温泉を連想させる。しかしながら宿周辺は、黒川温泉のような人通りの激しい賑やかさはないので、静かにゆったりと過ごせそうだ。客室露天風呂は5つのタイプに分かれており、檜風呂は「花」、桶風呂なら「風」、切石風呂は「空」「虹」「山」で、赤石のお風呂は「天」「星」、黒石のお風呂は「月」の部屋で楽しめる。客室の冷蔵庫は空となっており、飲物は自ら大浴場近くの自販機で購入するシステムとなっていた(ジュース類は定価販売)。
男女別大浴場にはそれぞれ露天風呂が付く。敷地から少し歩いたところにもうひとつ男女別露天風呂があった。しかしこれは最近、貸切露天風呂となった。客室露天風呂、男女別大浴場、貸切露天風呂・・・とすべての湯舟には、「ナトリウム-塩化物泉」のかけ流しとなっている。源泉の温度が高いため加水はしているが、循環ろ過装置を使わない、新鮮な温泉を是非体感してほしい。
食事はこれも離れの食事処でいただくことになる。取材時(2007年7月)にいただいた夕食は、山あいの宿らしく、海のものは出さず、しかも地産地消にこだわったメニューであった。食前酒はプラム酒。前菜はきゃらぶき、山くらげの粕和え、酢の物にわらびの信田巻き、小鉢にはゴマ豆腐、替り鉢は冬瓜のふき味噌、強肴に田舎こんにゃくなど。お刺身は虹鱒の洗い。焼物は山女魚の塩焼。洋皿は大根のグラタン。そして冷し吸物。台物は豊後牛の陶石焼。油物は山野草の天ぷらで、この日はあじさいの花、ふきの葉、花いかだだった。ご飯はとうきび飯。デザートは豆乳プリンのブルーベリーゼリーをいただいた。いずれも素朴ながら、それでいて手のこんだ献立であった。朝食も同じく、焼き魚に地元の豆腐、カボスドレッシングをかけたサラダ、茶碗蒸し、おくらととろろ、切干大根の煮つけ・・・とヘルシーなものだった。
今や、観光名所になった2006年10月に完成した「九重“夢”大吊橋」もクルマがあれば30分以内で行ける。それは長さ390m、高さ173m、幅1.5mの日本一の人道大吊橋で、橋の上からは、「日本の滝百選」に選ばれた「震動の滝」をはじめ、「九酔渓」と遠くには「九重連山」の雄大な景色が満喫できる。
「全室に客室露天風呂」、「貸切露天風呂」、「山あいの小さな離れの宿」、「かけ流しの温泉」、「地産地消にこだわった料理」・・・など人気旅館のスペックが揃っているので納得だ。由布院や黒川のような「観光地」ではなく、田舎の素朴な雰囲気をそのまま味わいながら、しかも露天風呂付き客室に泊まりたいという“わがまま”を聞いてくれる宿が「喜安屋」なのだ。
ご夫婦、若いカップル、家族、女性同士など幅広い客層に受け入れられるには、この宿の最大の魅力であり個性でもある。その良心的な宿泊料金の設定も見逃せない。この宿を選ぶ際は早めの予約がよろしいようだ。(J)