「十勝川温泉」の歴史は北海道、道東の観光の歴史といっても過言ではない。1900年(明治33年)、依馬嘉平という人物が、自然湧出した温泉を地元住民と楽しんだ事が、この温泉地の発祥とされているが、林豊洲(はやしほうしゅう)氏が発動機を使ったボーリングを開始した1931年(昭和6年)、そして翌年に温泉湧出に成功し、「十勝川温泉」と改称し、「十勝川温泉ホテル」を建設着工した頃が、実際のスタートラインと考えるべきだろう。
林豊洲氏とは、現在の「十勝川温泉第一ホテル」の社長、林文昭氏の祖父にあたる人物で、1919年(大正8年)に十勝毎日新聞を創業し、当時は地元の産業の振興のほか、然別湖と糠平の国立公園編入運動に奔走していた。豊洲氏は、もともと大分県臼杵市の出身。別府温泉の繁栄を知っていた。九州から北の大地に移り住み、ジャーナリストとして道東の発展に寄与していたわけだ。ところが、「十勝川温泉ホテル」を1932年(昭和7年)の開業直前に売却し、新たに1934年(昭和9年)には「観月」を開業させたが、これもしばらくするとこれも売却してしまう。それは1935年(昭和10年)に、豊洲が46歳の若さで亡くなったことが起因している。その亡き父の遺志を継いだのが、先代の社長である克己氏(現社長・文昭氏の父)となる。当時24歳の若さで事業を受け継ぐことになったわけだ。
その後、日本は第2次世界大戦(1941〜45年)の戦火にまみれ、戦後の混乱の中、克己氏は1952年(昭和27年)に「十勝毎日新聞」を復刊し、1955年(昭和30年)には温泉のボーリングを開始し泉源を発見する。翌年12月には木造モルタル平屋建て、客室10室の「十勝川温泉クラブ」を開業させた。現在の「十勝川温泉第一ホテル」の歴史がここから始まったわけだ。
1959年(昭和34年)には8室増築。1961年(昭和36年)には、9室増築し、名称も「十勝川温泉第一ホテル」と改称した。その後、幾多の自然災害にも遭遇したが、徐々に拡大路線へと歩んでいくこととなる。
1990年(平成2年)に、長男・光繁氏(現・第一ホテル会長)に新聞事業、四男・文昭氏(現・第一ホテル社長)にホテル事業を譲り、取締役となったが、1992年(平成4年)に父の名を取り入れた和風館「豊洲亭」をオープンさせた翌年、心不全で亡くなった。81歳だった。
克己氏は、父・豊洲氏の夢を受け継ぎ、メディアと観光を中核とした勝毎グループを磐石にまで育て上げた。ホテルの実際の運営は、昭和50年代後半まで、奥さんの恕子(くにこ)さんが女将として切り盛りしていたが、増改築の資金繰りや、十勝川温泉の振興、地域のインフラ整備など、多大な功績を残したのは間違いない。
現社長の文昭氏は、昭和50年に第一ホテルに入社後、父・克己氏とともに、ホテルの増改築を重ねていった。1984年(昭和59年)4月には客室60余室からなる新館が完成。この新館建設を機に温泉ホテルからリゾートホテルの雰囲気を持つようになってきた。1990年(平成2年)に社長に就任した後は、「北海道ホテル」の買収、そして前述のように「豊洲亭」をオープンさせ、2004年(平成16年)には、道内では先駆けとなったデザイナーズ小規模型高級旅館「三余庵」を開業、そして2007年(平成19年)には、本館を「豆陽亭」として改築して、現在の形になった。
「十勝川温泉」といえば、モール温泉を語らなければならない。モール温泉とは、植物由来の有機質を含んだ温泉のことで、モール泉ともいう。ちなみに、モールとは、ドイツ語で亜炭のこと。
実はモール温泉は、正式な温泉表記ではない。温泉の分類上は「ナトリウム−塩化物・炭酸水素塩泉」。植物が長い時間をかけて堆積した亜炭層から湧出する温泉で、植物性の有機物を多く含み、肌への刺激が少なく、一般の温泉にくらべ天然保湿成分を多く含み、pH値も8.22と弱アルカリ性で、肌がしっとりツルツル効果を実感することで美人の湯として知られている。
お湯の色も特徴的だ。茶褐色、琥珀色、飴色・・・など様々な表現があるが、とにかく透明度が低い温泉でもある。一般的に温泉とは地下に閉じこめられた化石水が火山熱によって地上に出てくるものをいうが、ここ「十勝川温泉」は、近くに火山帯もなく、しかも泉質も植物性ということで、非常に稀有な温泉として全国に知れ渡るようになった。
ただし、数々の掘削の結果、将来的な温泉の枯渇問題も浮上してきたため、1989年(平成元年)からは温泉組合の集中管理方式に切り替えている。
ちなみに、このモール温泉は、次世代へ引き継ぎたい北海道の宝物として、平成16年に北海道遺産構想推進委員会で、「北海道遺産」に登録された。
その貴重なモール温泉を、このホテルでは多くの湯舟によって楽しめるわけだ。大浴場「湯楽」は二層吹き抜けを備え、1階には内風呂、打たせ湯、そして露天風呂。2階には展望露天風呂と檜風呂、ジャグジー風呂のほか、ドライサウナ、ミストサウナも用意してある。
「豊洲亭」の9室の露天風呂付き客室のお湯も、もちろんモール温泉を使用している。
現在のこのホテルの正式名称は「十勝川温泉第一ホテル 豊洲亭 豆陽亭」という。全113室からなる大型温泉リゾートホテルとなったわけだが、それぞれ客室は目的・用途によってセグメントされている。
「豊洲亭(ほうしゅうてい)」は純和風の佇まいを意識した、広々とした造りの客室が用意されている。最近9室に増えた露天風呂付き客室や特別室は、この「豊洲亭」にある。
最近新たにオープンした6室の露天風呂付きの客室の主な仕様は、和室12.5帖+バス・トイレ+シンク+檜の露天風呂の構成。テレビは32インチ液晶。窓からは十勝中央大橋が見え、贅沢なモール温泉かけ流しの露天風呂を備える。
以前からあった露天付き客室は3室あるが、こちらは和室12.5帖+広縁+トイレ+シンク+タイルの半露天風呂の構成。大きな違いはお風呂がタイル張りになっている点と、半露天風呂的な装いということ。
和風モダン館「豆陽亭(とうようてい)」は、伝統とモダンリビングの融合をテーマに造られており、最近の流行に沿ったデザインが施されている。必要最低限のスペースに効率よく家具や調度品が配されており、それでいてリーズナブルな料金設定ということもあり、オープン以来人気を博している。
テレビも大型32インチの液晶テレビの他、CDプレーヤー、冷蔵庫、バス、シャワー付きトイレなども当たり前のように全室に完備されていた。
2階から5階まで、それぞれテーマのあるデザイン構成となっており、さらに十勝中央大橋の見えるリバービューと、「三余庵」のあるパークゴルフ場側のガーデンビューの客室に分かれている。
まず、2階フロアのテーマは「レトロモダン」ということだが、ヘリのない畳を敷き詰めた和室となっており、川側の客室にはミニガーデンとバルコニーも備わる。
3階フロアのテーマは「北海道モダン」。北海道独特の力強いインテリアデザインがアピールしている和室。こちらも川側の客室にはウッドバルコニーが付く。
4階フロアは「十勝モダン」。ツインベッドルームの洋室となっていて、部屋にいながら十勝の自然を感じさせてくれるようだ。こちらも川側の客室にはウッドバルコニーが付く。
5階フロアは「民芸モダン」。校倉つくりを用いたデザインの和室。このフロアの川側にはバルコニーは付かないが、他の「豆陽亭」の客室と比べ10帖となっていて広い。庭側は8帖となる。
ちなみに「豆陽亭」という名は、十勝の開拓者、依田勉三の兄、依田佐二平が明治12年に静岡県、伊豆・松崎町に開校した中学校「私立豆陽学校」の校名からいただいたものとの事。また、十勝平野が日本一の豆の産地で、日照時間の長いことにも由来している。
このホテルは温泉リゾートを標榜するだけあって、付帯設備も充実している。例えば、北海道が発祥のパークゴルフ場18ホールや、カラオケボックス3室を併設する80名収容のバー「ウィズ」、ラーメンもいただける居酒屋「とかち野」、ゲームコーナーなどもそろえる。
特にパークゴルフ場は大人気だ。ホテルの中庭の広大な敷地に緑が鮮やかな芝生が敷き詰められている。プレイ代は道具代350円のみ。18ホールを備え北海道の自然を感じられるパークゴルフ場だ。大きめのボールを同じクラブを使ってプレイするもので、子供から大人まで楽しめる。
ここで料理(取材は2008年5月)のご紹介をしよう。
夕食はレストラン「木もれび」でいただいた。メニューは「星空」のコースだ。
食前酒は、山ぶどう酒。池田産山ぶどう液にお酒をまぜたもの。ワインとは違う。
先付は、襟裳産松藻(まつも)と蕨のお浸し。藻は松の葉に似ている海草の事。
前菜は、旬彩盛り。まぐろのしぐれ煮。チーズ豆腐、白魚と梅肉のせ。水菜と湯葉と海老のお浸し。ホタテ(噴火湾産)のうま煮。ホタテムース、空豆、するめイカ(函館産)の黄味焼き、タラバガニの内子焼き、山うど(東北産)のきんぴら。
お造りは、広尾(襟裳岬の近く)産の生ウニ、広尾産の真ゾイ(白身魚)、同じく広尾産の牡丹エビと本マグロ。
焼物は、十勝牛ヒレ肉鉄板焼き、季節のプリムール添え。ソースは、十勝の野菜を使ったバーベキューソースで、プリムールとは野菜の事。ブロッコリー、ミニトマト、舞茸、タイム(香草)添え。
煮物は、五穀米の湯葉巻き、コーンソース掛け。五穀米を俵状にしたものに湯葉を撒いてソースをかけて山葵をのせた。コーンソースのコーンはもちろん十勝産。
台肴は、十勝川温泉第一ホテル名物のモール温泉源泉蒸し。通年出されるメニューだ。モール温泉の源泉を使っての蒸し料理だ。広尾産の本鱒(天然もの)、鶏肉(中札内産)、湯葉豆腐に季節野菜(地野菜の白菜、ごぼう、かぼちゃ、ひめ筍、山うど、舞茸、絹さや)を、ごまだれ、塩だれでいただく。
進肴は、釧路産の大兵(おひょう)唐揚げ、あけぼのソース、バルサミコソースがけ。下にじゃがいもサラダが敷いてある。あけぼのソースとは、生クリーム、マヨネーズ、ケチャップで作ったもの。
蒸し物は、厚岸(あっけし)産の白魚茶碗蒸し。音更(おとふけ)産の白花豆の他、エビ、三つ葉、ぎんなんが入る。
酢の物は、根室産の浜茹で毛蟹。根室で水揚げされたもの。
締めの食事は、アサリ(厚岸産)の炊き込みご飯。留椀は、北寄(ホッキ)しん薯(※しん薯とは、白身魚のすり身などを山芋などと混ぜて蒸したり揚げたりした料理のこと)、蓬麩と白髪ねぎ、木の芽(山椒)が入っていた。
香の物は、池田産胡瓜(ビール漬け)、紅鮭挟み漬け、十勝のお豆紫蘇漬け(大豆、白豆、紫花豆)。
水菓子は、小豆プリン、生クリーム、ブルーベリーのせ。十勝産牛乳プリンに小豆を入れた。
食事といっしょにいただきたいのは地ビールだ。ここでは4種類揃う。十勝ビールの十勝ラガー、ヴァイツェン、ブラウン・エール、そしてモール温泉ビールだ。
ワインは池田町で醸造されたオリジナルラベルの十勝ワイン「木もれび」が用意されていた。
朝食は、宿泊プランによって、バイキングか、コースメニューとなる。今回はコースメニュー(2008年5月取材)でご紹介しよう。
まず、和食と洋食の選択制となる。
飲み物は、ウーロン茶、オレンジジュース、牛乳より選択。
まず、この日の和食の献立は次の通り。
サラダは、マーブルチーズ、レタス、水菜、ブロッコリー、ミニトマト、玉ねぎ。煮物は、里芋、とり肉、しのだまき(油揚げで野菜をまいたもの)。そして、小豆どうふと豆三種(白いんげん、枝豆、きんとき豆)。
焼き茄子の長芋がけ。湯豆腐は、音更産の大袖大豆を使用。焼魚は、なめたがれい(広尾産)。
だし巻き玉子とイカのワサビ和えとおろし、たらこなどに、なめこと松藻の味噌汁、香の物が付く。
デザートは、パイナップル、イチゴ(生クリーム)、ぶどう。
洋食は、特製コーンスープ。オムレツは、デミソースがけでクレソンといっしょに。ベーコン、ウィンナー、ポークハムも美味しい。特にポークハムは、料理長がレシピを出して、旭川の肉屋さんに作ってもらっているもの。発色剤を使わないというこだわりもある。その他、じゃがバター、かぼちゃ、枝豆、タイムが添えられていた。
パンは、デニッシュ(アップルパイ)とフランスパン。ヨーグルトは、ブルーベリーソースがけ。
サラダ、フルーツは、和食メニューのサラダと同じもの。コーンフレークもあった。
アロマテラピーサロン「ラフィーネ」が女性に人気だ。
トリートメントで使用するのは、フランスアロマテラピーの父と言われるDr.ジャン・ヴァルネ。厳選された最上質のオーガニックエッセンシャルオイルを使用して、フランスのアロマテラピーを実感することができる。
その他、使用するキャリアオイル・製品類は全てノンケミカル、オーガニック製品のみ。安全・安心に敏感肌等さまざまなトラブルにも対応する。
ボディトリートメントは、タラソテラピーなど様々なコースがある他、フェイシャル、フットなどパーツごとのメニューもある。
また、フェイシャルとフットのコースに関しては、男性も受けられるとの事。
ここでのおみやげは、やはりモール温泉関連のものがオススメだ。モールスキンソープ、スキンローション、薬用入浴剤の3点。植物由来の有機物を含むモール温泉を原料とした、まさにここでしか買えない商品となる。
琥珀色の源泉は、絹のようなつるつるの肌にすると言われ、その効果をスキンケア商品にしたもの。
また、食品ものでは、オリジナルのごまドレッシング、ピリ辛ドレッシング、十勝名物の豚丼のたれなども人気だ。
お菓子では、甘納豆、十勝川まんじゅうも美味しい。その他、あの旭山動物園のグッズも販売されていた。
周辺の観光としては、帯広市内が近いので、北海道らしい町並みと風景を楽しめるが、オススメなのが清水町にある「十勝千年の森」だ。多様な動植物が生息する自然林の育成・保全と、在来樹種の植林による本来の十勝の森の復元を目的にオープンした。その広大な豊かな森の自然環境から、多くの事を感じて学ぶ環境教育の場づくりと、農業についての理解を深めてもらうため、一般の方を受け入れている。ちなみに場内ではあのセグウェイも乗れるらしい。
ピクニックとしても楽しめ、敷地内にあるファームレストランも評判が高い。オノ・ヨーコの現代アートもある。是非1日かけて過ごしたいエリアだ。
ロビーに東郷青児画伯(1897-1978年)の絵が飾ってあった。タイトルは「山の湖」。この絵は、大雪山国立公園の中にある然別湖と対岸のクチビル山をモチーフに描かれたもので、女性が帽子をかぶっているが、これは先代の社長、林克己氏がかぶっていた帽子をイメージしたものという。鹿児島県出身の東郷青児は、克己氏と親交を深め、存命中はよく十勝・帯広を訪れていた。この絵は昭和52年のリニューアルの際に贈られたものだ。
十勝川温泉というより、北海道を代表する温泉リゾートホテルと成長した「十勝川温泉第一ホテル」だからこそ、多くの著名人が訪れている。
このホテルの一番オススメなのは12月から3月初旬の冬の季節。というのは、目の前の十勝川に相当数の白鳥が飛来するからだ。間近に見る白鳥は、人懐っこく、多くのカメラマンも訪れる。また、白鳥まつりも1月下旬から3月初旬に行われ、夜の雪原に設置されたイルミネーションの幻想的な光景は思い出に残るはず。
日本の中でも関東平野、北海道の石狩平野に次ぐ広さを誇る十勝平野のほぼ真ん中に位置する「十勝川温泉」。北海道にしては、雪が少なく夏以外のシーズンでも充分にポテンシャルを持った温泉地とも言える。
林豊洲氏から始まった3代に渡る温泉リゾートホテルにかける情熱は、この地で次の世代に間違いなく受け継がれていくだろう。
そして、「十勝川温泉第一ホテル」は、この温泉地の振興だけでなく、道東、いや北海道全体の観光事業の中核を担っていなければならない宿泊施設でもある。
低価格帯の宿泊料金にも関わらず、満足度の高い和風モダン館「豆陽亭」。
大人が休日を過ごすには最適な空間を提供してくれる純和風館「豊洲亭」。
そして、さらに上質な時間を別荘代わりに過ごしたい方には、「三余庵」もある。
この3つの客層をひとつのエリアで網羅することによって、幅広い顧客層を獲得することができた第一ホテルは、業界の中でも注目を浴びている。
この開拓精神に基づく先人たちの苦労の結果、このような温泉リゾートを形成されたことを念頭にいれつつ、是非この地に訪れてほしい。
このホテルは、夏のトップシーズンだけの観光ホテルではない。地元の方にも支持されているホンモノのホテルなのだ。そんなワンランク上の宿をお探しなら、このホテルを選んで間違いはないだろう。
その理由として、このホテルの従業員の「顔」がいい。ここでいう「顔」がいいということは、姿かたちがいいという意味ではない。もちろん、イケメンスタッフ、美人スタッフも多いだろうが、私が言いたいのは、従業員が客に接するときの「顔」が素敵に見えたということだ。自然にでてくる笑顔は、北海道の土地柄からくる大らかさなのか、なんとも心が和む。大型ホテルにも関わらず、この空間にはなぜか、小さな温泉宿で提供してくれるような、アットホームな接客が心地よかった。
広大な大地に佇み、世界的にも珍しいモール温泉、そして北海道を意識した料理に、目的別に用意された客室タイプ・・・どれを取っても宿泊料金からみて満足度は高い。この総合力の高さがこのホテルの最大の魅力なのだ。(J)