北海道の魅力と言えば、なんといっても手付かずの大自然だろう。
都会の喧騒の中で生活している身としては、あの広大な大地に広がる山や川、そして長年かけて開拓された農地や放牧された牛や馬たちを見ているだけでも、心が和んでくる。
全国の温泉旅館の多くが、“癒し”をテーマに宿作りをしているが、ここ北海道は、大地、空、そして美味しい空気そのものが、旅行者の中にストレートに“癒し”として伝わってくる。
人によって作られたものではなく、自然が作ったものがこれだけ周辺に当たり前にある場所は、この狭い日本では北海道しかないように思える。
それでも、北海道は、ここ50年で交通のインフラが整うにつれ、各地にリゾートホテル、温泉ホテルが乱立するようになった。
ところが、最近のマスコミ報道を見て聞いてご存知の通り、大型レジャー施設も無計画に建設され、今では放置されたままのゴーストタウンならぬ、荒れ果てた無人のゴースト施設が、数多く存在することになってしまった。
第三セクターが開発した施設の多くが赤字経営に陥り、地元住民の税金負担が増えるという悪循環が、この北の大地を苦しめてきた。
しかし、北海道には大自然という財産がまだ残っている。
これは、やはり大きい。
北海道の観光の潜在能力は、やはり日本一と言えるだろう。
その中で、道東エリアに位置し、オホーツク海に面しているサロマ湖は、あまり観光地化が進んでいないところである。
周辺には、旅館、ホテルもあまり目立つものが建っていない。
2005年に世界遺産に認定された知床半島が近くにあるにしろ、近隣に目立った観光名所があるわけでもない。
そのサロマ湖東岸に、東急ホテルグループが、昭和60年(1985年)に「サロマ湖東急リゾート」を誕生させた。
北海道の中でも、本格的なリゾートホテルとして、多くの旅行客を迎え入れてきた。
そんな中で、幾度かの北海道の観光不況の中、このホテルは、平成14年(2002年)、東急グループが運営撤退を決めた後、常呂町(現・北見市)の要請もあって、現在の鶴雅グループに売却された。
鶴雅グループは、あの全国区の人気温泉ホテル、阿寒湖の「あかん遊久の里 鶴雅」を筆頭に、超高級旅館「鄙の座」など、数々の宿泊施設を成功させてきた。
そのノウハウを、このリゾートホテルに注入していったのだ。
まず、一番の改革は、温泉の掘削だった。
鶴雅グループの総帥、大西雅之社長は考えた。「いかにリゾートホテルといえども、相当パワーのある観光地ならともかく、交通の便もお世辞にもいいとは言えない北の最果ての地では、年間通して客は呼べない。そこで、温泉があれば事情は違ってくるはず。」
その読みは見事に当たり、温泉を掘り当てることに成功。
しかも、溶存物質が5,000g/kgを超える、良質の温泉が湧出したのだ。
これで、このホテルに今までなかった男女別大浴場と露天風呂を完成させ、新生「サロマ湖鶴雅リゾート」の第一歩が踏み出せたのだ。
温泉だけではなく、メインダイニングであったレストラン「ラ・メール」の増床工事も行った。
そして翌年の2003年には、バーラウンジ「マウニ」と、フレンチレストラン「イストワール」を新築する。
「イストワール」の完成により、その後、メインダイニング「ラ・メール」は、夕食と朝食のブッフェ会場の役割を果たしていく事になる。
さらに、この年からスタンダードツインルームの改装を施していく。
現在、「サロマ湖鶴雅リゾート」で一番多い客室タイプの「リゾートツイン」へのリニューアルだ。
2003年に8部屋、2004年に14部屋、そして2005年に12部屋という具合に増やしていき、現在このタイプは34部屋にもなった。
これは、縁なし畳にローベッド仕様の和洋室で、大きな窓からのサロマ湖の眺望という、和モダンのテイストが入った客室となっている。
さらに、2005年には、和洋室のリニューアル。
そして、和食の食事処「竜宮亭」を完成させた。これにより、和食懐石メニューも可能となった。
現在の、夕食が、フレンチ、和食、ブッフェの3種の中から選べるスタイルになったのだ。
この3択できる夕食は、1泊2日が当たり前だったところを、大西社長が考えている「連泊してもらう」滞在型スタイルに移行し得る可能性が出てきたことを意味するからだ。
この豊かな大自然を体感するのは、やはり1泊2日ではもったいない。
やはり、最低でも2、3泊してもらわないと、サロマ湖の良さが充分に理解できないと思う。
そして、前述のように、「サロマ湖鶴雅リゾート」には、新たに“温泉”というキーワードが加わった事により、ここサロマ湖の滞在が、より魅力的になった事は確かだ。
このホテルでは、源泉名を「ワッカ温泉」もしくは「ワッカの湯」と呼んでいる。
“ワッカ”とは、アイヌ語で「水」を意味する。
ただ、この「ワッカ=水」は、タダモノではない。
極上の自然の恵みだということが、水質を検証すればすぐに分かる。
まずは、この温泉に含まれる、鉄イオンの含有量が凄い。
環境省の「鉱泉分析法指針」によれば、試験水1kg中10g以上であれば「温泉」に認定され、20g以上であれば、「療養泉」に格上げされ、含鉄泉などの泉質名も付けられる。
しかしながら、この温泉「ワッカの湯」の第一鉄イオンの数値が、なんと温泉1kg中に233.4g(!)。
これは、療養泉の規定の10倍以上、温泉の規定からすれば20倍以上もあるから驚きだ。
これだけではない。
泉質名を決定付ける“陰イオン”の成分、「塩素イオン」が、なんと3,458g(!)も入っているのだ。
通常、ナトリウムイオン、マグネシウムイオンなどの陽イオンと、塩素イオン、炭酸水素イオンなどの陰イオン、そしてメタケイ酸などの遊離成分の合計、いわゆる溶存物質(ガス性のものを除く)が、1,000g以上入っていると、「塩化物泉」などの、成分の名前が入った泉質名となる。
ちなみに泉温25℃以上で、溶存物質(ガス性のものを除く)1,000r未満の温泉は、「単純温泉」と称する。
この「ワッカの湯」は、ナトリウムイオンが868.6mg、マグネシウムイオンが329.6mg、カルシウムイオンが456mg、そして、第一鉄イオンが233.4gなどを含め、陽イオン成分だけで1,939mgに達する。
陰イオンは、塩素イオンが傑出していて3,458mgで、合計3,564mgとなる。
そして、遊離成分が64.3mgなので、なんと溶存物質(ガス性のものを除く)の総計は5,567mgとなるのだ。
この成分の濃い温泉の泉質名は「含鉄−ナトリウム・マグネシウム・カルシウム−塩化物温泉」。
これは、一般的な温泉の適応症の他に、含鉄泉と塩化物泉の独自の適応症も持つという、まさに極上の泉質であることが分かる。
含鉄泉の独自の適応症としては、貧血、月経障害、更年期障害。
塩化物泉は、慢性皮膚病、切り傷、やけどなど。
含鉄泉の湯の色の特徴としては、空気に触れ酸化がすすむと、赤褐色になる場合が多い。
このホテルの露天風呂の岩には、湯に接している部分が赤くなっているのがわかる。
塩化物泉は旧泉質名でいうと「食塩泉」。カラダの芯から温まり、湯冷めしにくいのが特徴なので別名「熱の湯」とも呼ばれている。
pH(ペーハー)6.2という数値は、中性。
人の肌は弱酸性なので、刺激は少ないとも言えるが、このホテルとしては、鉄分が多いため、または排水基準を満たすため、加水して薄めているようだ。
これは大型浴槽を持つ施設の宿命で、やはり循環ろ過装置を使っての塩素消毒を施さないと、衛生上心配だということなのだろう。
湧出時の泉温が、10.6℃(気温15℃で試験)のため、分類では「冷鉱泉」(25℃未満)になるが、これも循環ろ過装置により、湯温は内湯を41℃、露天風呂を40℃に設定している。
しかしながら、収容人数168名のホテル規模ながら、温泉(鉱泉)の湧出量が毎分210リットルあるということは、充分に源泉かけ流しにできる量はあるということ。
できれば、この豊富な源泉を使って、次回のリニューアルで、源泉100%の客室露天風呂や、貸切露天風呂などを増設していただきたいものだ。
現在(2009年12月)、このホテルの支配人は、白井勝さん。
5月まで、日本一と称されるサービス、そして顧客満足度を誇る「あかん遊久の里 鶴雅」の支配人をしていた。
その支配人が、同じ鶴雅グループでも、少し希薄になってきた「サロマ湖鶴雅リゾート」に、乗り込んできたのだから、スタッフの気持ちも一新されたに違いない。
いわゆる人事異動で、サロマ湖にやってきたのだが、さっそく様々な改革に着手し始めたようだ。
スタッフの基本的マナー、言葉遣い、お客様への対応の再教育を実施し、それまで休止していた客室にお茶菓子を入れる事を再開させた。
その他、フロントチェックインから、テーブルチェックインに切り替えたり、記念日のお客様にスパークリングワインのサービスを行ったりと、鶴雅グループの基本である、お客様アンケートを参考に、サービスの見直しを実施していった。
公式HPを見ると、宿泊プランも面白いものが増えてきた。
例えば、お得な料金の大人一人+子供一人のプラン。
平日限定でチェックイン20時、チェックアウト20時の24時間ステイが可能で、2日目の朝食と夕食が付くミッドナイトチェックインプランも最近予約が増えてきた。
当日のくじ引きで客室がグレードアップできるかもしれないプランもある。
早起きが苦手な方向けにレイトチェックアウトプラン(12:00)も人気。朝食を喫茶「ソレイユ」でいただけるランチに切り替えることができる。
定員2名の「リゾートツイン」タイプの客室を、3名グループの場合、2部屋利用できるお得なプランも登場した。
1名利用の部屋も、2名利用時と同じ料金にしてくれるところがいい。
このように、魅力的な宿泊プランをどんどん打ち出しているので、是非公式HPをチェックしてほしい。
リゾートホテルとは、何だろうと考えてみる。
一般的にリゾートホテルと呼ばれる施設には、観光地や保養地に立地し、場所によってはプールやゴルフ場などの施設を保有しているところも多い。
「サロマ湖鶴雅リゾート」は、その点で言えば、観光地ではなく保養地と呼ばれるロケーションにある。
プールもゴルフ場もないが、目の前にはサロマ湖とオホーツク海がある。
サロマ湖は、この広大な面積に関わらず、他に目立った宿泊施設もなく、レストランも少ない。
つまり、他の北海道の観光地と比べてみても、観光客や地元の人たちを見つけることが少ないはずだ。
これは、個人的に言えば、私の好きなリゾートホテルの第一条件なのだ。
風光明媚な自然環境にありながら、人が少ない・・・という事は、なんとも贅沢な事だと思う。
それは、北海道の道東エリアということもあるが、これはまさに非日常の世界に身を委ねることができるという事なのだ。
私は、90年代、東急時代のこのホテルを訪れたことがある。
確か、8月の終わり頃だったと思うが、他の北海道の観光地と違い、うら寂しい雰囲気が気に入った記憶がある。
サロマ湖がよく見せる荒涼な表情は、日本の最北の地らしく、自然の厳しさを無言で訴えかけているようでもある。
その「分かりにくい」良さに、鶴雅グループは「分かりやすさ」をプラスしてくれた。
すなわち、天然温泉の大浴場、過ごしやすい客室のリニューアル、3種類から選べるディナー・・・などがそれだ。
このホテルは、ご夫婦2人が、お互いをねぎらい、大自然に包まれながら、日頃話せなった会話を楽しんだり、ゆったりと時間を過ごすことにおいては、これ以上ない施設と言っていいだろう。
客室数70室の規模ではあるが、少人数の個人客ばかりなので、館内も落ち着いた雰囲気が漂っている。
緑鮮やかな初夏からのトップシーズンもいいが、9月からの一足早い秋のシーズンもサンゴ草の群生も見られオススメだ。
そして、冬は一面の銀世界に覆われるため、まさに異空間の中で、時間を過ごすことができる。
いずれにせよ、四季それぞれの魅力をたっぷりと経験できるのが、この「サロマ湖鶴雅リゾート」のいいところ。
観光目的ではなく、時間を優雅に過ごすことに重点を置く旅行であれば、ここは最良、最適な場所のはずだ。(J)