岳温泉は、福島県中通り地方の二本松市の奥座敷として知られているが、幾度かの天災などを乗り越えて、現在の温泉地の姿を見せている。
周辺環境も素晴らしい。
空気の非常に澄んだ「あだたら高原」は、春〜夏はトレッキングや避暑、秋は紅葉、冬はスキーと一年中見所がある。
しかも、東北自動車道・二本松ICから10キロほどでアクセスもよく、仙台から車で1時間少々。首都圏からなら3時間ほどで辿り着く。
東京から新幹線に乗れば2時間ほどだ。
その小さな温泉地に、小さな温泉宿がひっそりと佇んでいる。
全8室の温泉旅館は、館内すべてが大正ロマンをテーマにリニューアルされ、古い木造建築の建物は、誰もが落ち着く寛ぎの空間に仕上がっていた。
「お宿 花かんざし」の初代オーナーは二瓶恵子さん。
元々ご主人の経営する宿の手伝いをしていたが、自らの理想の宿を作りたいと考えていた。
そして、昭和20年に建てられた「日野屋旅館」という宿を丸ごと買い取って、平成元年に「花かんざし」と改称してスタートさせた。
恵子さんは、その古い木造建築の宿を、あえてそのまま生かそうと思い、補修なども必要最低限に留めた。
館内の調度品は、レトロで温もりあふれる物で統一させた。これがやはり、周辺の宿にはない個性として、一躍人気の宿となった。
その後、平成18年に長女の明子さんが宿に戻ってくると、すぐに経営を任せたという。
それから現在まで、この宿を指揮しているのは、まだうら若き二瓶明子さん(1978年生まれ)。
突然の重責に、当初は不安ばかりが先行していたという。
明子さんは、大学卒業後、日本有数のラグジュアリーホテルのひとつ「ホテル西洋 銀座」で約4年間勤務した。
日本初のいわゆるコンシェルジュと言われている“バトラー”を置いたホテルとして有名だ。
そこで、そのバトラーとして、お客様の執事のような役割を担っていた。
この時の経験が現在、接客する上でも生かされているようだ。
現在、この宿のスタッフはほとんどが女性だが、みな細やかな心遣いで接客しているのが分かる。
本格的な京懐石の夕食、効能豊かな温泉とともに、接客の評判も非常にいいと聞く。
宿の公式HPを見ると、女将が書いているブログ「旬なおはなし」がアップされている。
接客からスタッフの管理、事務経理、温泉のメンテナンスに生け花と、忙しい日々を送りながら、ブログも更新しているとは恐れ入る。
公式HPを見ると、魅力的な宿泊プランがあったので、ここに抜粋する。
一番人気のプランは、「フルムーン夫婦・カップルにオススメ 選べる特典付プラン」。
特典は、湯上りのグラスビール一杯か、スパークリングワイン(50代以上のご夫婦は、会津塗りの割箸1セット)のどちらか、チェックイン時に選んでいただく。
さらに、アーリーチェックイン13時〜レイトチェックアウト11時30分となり、22時間30分のロングステイが可能。時間を気にせずゆっくりと過ごせるのがいい。
女将のイチオシプランは、「レディースプラン」。
こちらのプランでお泊りいただいた花かんざし女性には、オリジナルお香(ほのかな薔薇の香り)と、あんみつ(茶寮「花いかだ」の人気スイーツ)がプレゼントされる。女性グループのお客に人気のプランだ。
他に、クリスマスプランや、バレンタインプランなど、洋風のプランも打ち出している。
モダンでお洒落なこの宿なら、パートナーも必ず喜んでくれるだろう。
この宿に予約を入れるなら、まず公式HPで、お部屋を「露天風呂付き客室」「庭園付き特別室」「一般客室」のいずれかを選ぶか考える。
そこでベーシックな宿泊プランを見て、他の特典が付いているプランと比較してみる・・・というのが賢い方法だ。
気を付けるのは、やはり直接公式HPからネット予約をする方がお得だということ。
なぜなら、夜間に大浴場が貸切になるサービスがあるからだ。
この宿の代表となって2009年で3年半経過した明子さんは、最初の2年ほどは、ガムシャラに女将の仕事をこなしていたという。
しかし、ここ1〜2年は、少し余裕が出て、自らが目指す“理想の宿”について考えるようになったという。
「この宿の建物は古いですが、いい部分はできるだけ守っていき、お客様が自分の家よりも居心地がいいと思っていただけるような宿にしていきたい。」と、笑顔で力強く語ってくれた。
茶寮「花えらび」には、お客が旅の思い出など自由に書けるノートが置いてある。
そこにあったお客が記した言葉に、宿の魅力が凝縮されていたので、拝借させていただく。
“全国の温泉旅館様を訪れております。和風モダンを極めたゴージャスな宿、大きな露天風呂付きの高価な宿、離れ形式の贅沢な宿・・・しかし、趣き豊かな宿というのは、このような宿ではなく、まさに此処「花かんざし」を指す。”
こんな風に考えるお客が後をたたないのだ。
母・恵子さんから娘・明子さんへ、完全にバトンが渡された「お宿 花かんざし」。
この宿の持つ洒落た雰囲気は、女性のための宿と言えるだろう。
逆に男性はこの宿に女性をエスコートすれば、より密な関係が築けるに違いない。
やはり、女性が宿造りをすると一味違う。
女性らしい繊細さと優しさが同居した、本当にリラックスできる雰囲気がそこにある。
よく、温泉宿は、ハッピを着た威勢のいいお兄さんがいたり、フロントでテキパキと働く男性スタッフをよく目にするが、ここはやはり女性スタッフの方が圧倒的に多い。
彼女らの立ち居振る舞いは、凛として美しさも感じる。
そして、ここは福島県の岳温泉にありながら、京都・祇園のような“はんなりとした”空気感も漂わす。
これは、この宿の一番のキャラクターでもあり、スペックでもある。
小規模旅館は、やはり大規模旅館とは違い、多くの客層を喜ばせるのではない。
小さな宿を予約する客は、オーナーが創り上げた空間に、自分が同化、同調できるか考える。
言い換えれば、波長が合う宿、自分に合う宿を探しているのだ。
ここには、良質の温泉はもちろん、古きよき時代を感じさせる客室、旬の素材を使った絶品の料理、そして、女将はじめスタッフのおもてなしが、すべて高いレベルでゲストに提供されている。
でもそれは、計算されたものでなく、女将である二瓶明子さんそのものの朗らかさ、優しさによって醸し出しているように思えてならない。
その包み込むような寛げる雰囲気は、なかなか出せるものではない。
「宿とは人なり」・・・と久々に感じた。(J)