京都・夕日ヶ浦温泉のリーダー的存在の繁盛旅館「佳松苑」が、新たに別館として平成14年にオープンしたのが「はなれ風香」だ。低い瓦屋根の街並みが連なるこの街にあって、これら二つの近代的な建物(7階建てと8階建て)はそびえるようにそそり立って見える。それだけに、この夕陽百選にも選ばれたという夕日ヶ浦の最大の見所でもある「夕日」を存分に堪能できるというわけだ。ちなみに、この2つの旅館は連絡通路で結ばれており、貸切風呂、エステルームは共用となる。
まず「はなれ風香」(
http://www.k-fuka.com/)から案内すると、「佳松苑」と比べプライベート感を重視した設計になっている。「離れ」と聞くと、平屋のイメージがあるが、実際には前述の通り8階建ての建物。だが、1フロアに3室のみという構成、そして小学生以下はお断りといった、いわゆる大人専用の宿としている。
建築デザイナーの松葉啓氏設計による「はなれ風香」各部屋には、いずれも海に向かって温泉が設置されている。フロア、部屋によって湯舟もバラエティーに富み、具体的には、2階は信楽焼、3階は有田焼、4・6階はヒノキ、5・7階は岩風呂という構成になっている。湯舟の横の大きな窓を開ければ、日本海からの遮られることなく吹く風を頬に感じ、のんびりと半露天気分の温泉浴を堪能することができる。好みで分かれるところだろうが、個人的には湯舟で足をたっぷりと伸ばせる4階から上の客室がオススメである(しかしその分洗い場が狭いのが気になるところ)。全18室が和洋室、ツインベッドが置かれ、続く12畳の和室はたっぷりとした広さ。枕もロビーで貸し出し、先着順で「ヒノキ」「そば」「低反発」の3種類から選べる。また、各部屋には世界各国のインテリアをコーディネイト、さらにアロマポットが置かれる。部屋にある案内の冊子をめくれば、ただ単に「決まりごと」の羅列をしてあるのではなく、地元名産の土産物の案内から、浴衣の着付け、そして夕日の沈む時刻表など、宿泊客の期待に応えたいという宿の意気込みが感じられる。
客室に展望風呂が付いているからだろうか、パブリックの大浴場は他の客に会うこともなく、広々と利用できるはずだ。さらに女湯は、リニューアルしたてのセンスのよさを感じさせ、モダンな雰囲気を漂わせる。フルオープンの窓は、外からの視線を感じることもなく、開放感を楽しめる造りになっている。
男湯は内湯、露天、ジェットバスそして打たせ湯が付く。部屋付きの温泉だけでは(広さ的に)物足りないという方には是非オススメである。
風呂上りには、貸切風呂「風林」「風美」の目の前にある、エステルーム「三徳」の利用も可能だ。コースは、全身、フェイシャル、フットコース、ネイルケア。内容はリンパドレナージュ、マッセラマサージュ、タラソテラピーなど、料金は全身コース60分¥12600から。基本的に女性限定だが、カップルの場合は男性も施術してもらうことも可能。身体の芯から綺麗になろう。
料理は一階にある御食事処「風水」でいただく、部屋は寛ぎの空間であって欲しいという思いからだ。オープンダイニングで板長さんの働きっぷりを眺めながら食事をいただくことができる室内は、細長い囲炉裏を中央に、取り囲むようにテーブルを配置。全テーブルに掘りごたつ式に座れるようになっており、長時間のんびりすることができる空間でもある。その日(2007年10月)のメニューは「焼松茸と但馬牛ステーキ会席」の食事プランだった。まず食前酒に自家製の梅みかんの果実酒、前菜は秋の旬の素材が並んでいた。鮎の甘露煮、くるみの甘煮、きのこの菊花あげ、むかご真薯(しんじょ)、そして海老の一口寿し。ここの土瓶蒸しは、あらかじめお皿の上に、松茸、銀杏、海老がのっており、自分で土瓶に入れる作法のようだ。お造りは、津居山港に水揚げされた旬の魚が3種。この日ははカンパチ、ヨコワ、ヒラメだ。ちなみにヨコワとはマグロの幼魚の事。これらにレモンを絞り、自家製の塩か、わさび、大根おろしでいただく。煮物は徳島産のかぶらに、紅ズワイのカニ餡をかけたもの。食感がいい。ここでメインとも言える台物として但馬牛と松茸を鉄板で焼く。さすが松坂牛のルーツとも言える肉とあって柔らかく、肉汁が口の中でひろがる時はまさに至福の瞬間だ。松茸も岩手産という国産ものを使っているとあってか、こちらも香りと食感と申し分ない。焼物として秋鮭もみじ焼。鮭の上に載っているのは、ニンジンと玉葱とセロリが材料となっている。揚物は秋茄子挟み揚げ。茄子以外にも椎茸など旬の野菜が並ぶ。酢物は和牛(但馬牛)の焼霜マリネ風。締めのご飯は松茸の炊き込みご飯。ワカメとシメジの入った赤だしを添えて。デザートはきなこのプリン。巨峰の周りには海草ビーンズが彩りを加える。
朝食も夕食と同様、1階の食事処「風水」でいただく。和食と洋食から選ぶことができる。洋食は、クロワッサン、もちもちの米粉パン(ココア味、プレーン)五種類のパン、サラダ、オムレツ、ヨーグルトから成る。欲を言えばスープが欲しいところ。和食は鰯のみりん干し、豆乳の状態から熱して作る汲み上げ豆腐、粥か白米、そしてオムレツなどの卵料理。ここで使用する卵はどれも丹後の豊かな自然の中育てられた、荻野孝行さんの自信作。オリゴ糖のサプリメント、ガーリック、動物性食物繊維キチン・キトサンを配合した自家配合の飼料を使用している。
対する「佳松苑」(
http://www.kasyouen.com/)はどんなタイプの客にも対応のできる懐の深さを感じさせる宿。団体さんツアー客のご利用も多いようで、宴会場やバーラウンジ、ゲームコーナーまである、さながら総合エンターテイメント施設だ。部屋は8畳和室にツインベッドが付いた和洋室が基本の構成。どの部屋も海に向かっており、沈む夕日やビーチの景色、街並みの眺望が素晴らしい。バス付きの部屋もあるが、湯は温泉ではない。建物内に貸切風呂はないが、前述のとおりロビー前の通路を通り、「はなれ風香」内のものを利用することができる。
大浴場は男女一つずつ。どちらも露天風呂が付くだけでなく、男湯には寝湯と立ち湯、女湯には足湯に「サンダーバード風呂」、そして信楽焼きの浴槽の「たぬき風呂」という一風変わった趣向の面白風呂まで備え付けられており、客を飽きさせないための工夫がなされている。露天風呂は壁と植栽、やぐらの屋根で囲まれており、男女ともに景色は望めないものの外の視線を気にする事なく寛ぐことができるだろう。
「佳松苑」の夕食は部屋でいただく、こちらはこの日、「松茸と特選黒毛和牛の浦島会席」。こちらもボリュームたっぷり、お腹一杯になる。前菜は季節の品。栗のまわりにソバ揚げをまぶしイガグリ仕立て。イカのウニ和えに、胡麻豆腐、アワビの肝炊き。突出は松茸(中国産)と菊菜、そしてしめじのおひたし。造りは海からの贈り物5品と題された、香住エビ、カンパチ、鯛、赤イカ、鮪を、地元板長オリジナルの泡醤油につけて。少量の食用ゼラチンを混ぜてホイップ、刺身を醤油につけすぎずに済む工夫だ。海産物はいずれも豊岡の魚市場で当日仕入れてくるもので、身が引き締まっており美味。焼物には松茸と特選黒毛和牛のすき焼きを。この日は但馬産。その時その時の状態がいいものを仕入れる。質はA4以上のものをチョイス。鍋に盛られた綿菓子が浦島太郎の玉手箱の煙をイメージ、これを溶かし、肉に野菜をじっくり煮込む。ここでは綿菓子の量加減で甘さを調節したい(全部溶かしたら甘すぎた)。煮込んだ具材を芽かぶとろろにからませる。うどんはお好みで先に入れるか後に入れるか。お酒を飲んでいる場合には後から入れることをオススメする。続いてアワビ入り茶碗蒸し、アワビの天ぷら。この天ぷらはアンデスの紅塩につけてさっぱりといただく事をおすすめする。さらにはアワビの酢の物、吉野葛のお酢につけて。締めは特製の松茸雑炊、その場で調理してくれるのでアツアツのままいただける。白米は地元峰山町でとれたもの。デザートにこの季節(2007年10月末)、ハロウィンにちなんだパンプキンプリンを。夏場は自家製のマンゴプリンなど旬の素材のデザ−トを楽しめる。
また、11月から3月にかけては「はなれ風香」「佳松苑」ともに人気のかにのフルコースを用意している。これを目当てにした毎年のリピーターも多いそう。佳松苑では「カニフルコース」と題し、カニ刺身、カニ甲羅味噌焼、ボイルガニ一匹、焼カニ、わかめと大根とカニのしゃぶしゃぶ鍋、カニ天ぷら、カニ雑炊、カニの身入り茶碗蒸のカニづくしプラス、踊り車海老、イクラ醤油漬け、舟盛が付くという豪華なコース。風香ではセコがに、活ガニの洗い、かに甲羅みそ焼、焼きがに、かに天ぷら、蒸したての地がに半身、かに身入り茶碗蒸しとカニ好きにはたまらないラインナップの「かに会席」を用意。ゴージャスさに目がくらむようだ。
帰る前にはロビー横の土産屋もチェックしたい。食品類はロビーにてほぼオールシーズン開催の朝市で目にすることができるが、そのほかにも、丹後特産のちりめん製品、自社製造の「きんつば」や「がちゃまん」などの菓子類から、夕日ヶ浦にまつわる「夕日ポストカード」、さらにはタイやベトナム、バリなどのアジア雑貨も取り扱うなど多彩なラインナップ。一風変わった品として「とと合わせ」(¥1260)が目を引く。カルタの要領で、魚の名前を当てるカードゲーム。2005年度グッドデザイン賞も受賞した逸品だ。
この夕日ヶ浦温泉では大規模に展開しているこのグループ会社、旅館としては他にも同じ夕日ヶ浦により風情溢れるロケーションに佇む「一望館」があり、様々な客層、好みに応じることができる構成となっている。他にも、かにやあわびなどの海産物を主に取り扱う土産物・レストラン「かにはん」、売り場のすぐ隣で公開製造をする「御菓子司あん」があり、この夕日ヶ浦の地を舞台に、ライバル会社でもあるもう一方の雄と熾烈なビジネスバトルを繰り広げているようだ。
これら両土産物店は広い駐車場を挟むように建つ。温泉からの帰り道に気軽に立ち寄れる立地で、主に自社製品を取り扱っている。人気の品は、「かにはん」では「カニぽんたま」(2人前12個入りスープ付¥1050)。卵形の容器にウズラの卵大の野菜カニ団子が入っており、おでんなどとの相性もよさそうだ。喫茶も併設している「御菓子司あん」での人気商品は、丹後の黒豆・栗・芋を使用した「きんつば」(10個入り¥1050、15個入り¥1575、20個入り¥2100)、「おいものまんまのすいーとぽてと」(1本¥580、2本¥1050)、「がちゃまん」(10個入り¥1050、15個入り¥1575、20個入り¥2100)、そしてあの赤福餅にも似た味と食感が楽しめる「うらにし」(小・12個¥630、大・20個¥1050)。どれも店の奥のガラス越しに公開製造をしており、品質も安心できる。特に「おいものまんまのすいーとぽてと」は一日100本限定生産、鳴門金時を使用した味わい深い一品。「がちゃまん」は佳松苑のお茶請けとしてもお目にかかることができる。名前の由来は、この地方特産である丹後ちりめんの織機の発する音から取られたそう。("がちゃまん"と音がすれば金になる、という縁起のいいものだそうだ。)その他にも地酒ソフトクリーム(¥250)などもあり、お土産としてだけでなく、小腹がすいた時の避難所として有効に活用できそうだ。(EB)