水上・谷川・うのせ・湯檜曽(ゆびそ)・向山・宝川・湯の小屋の7つの温泉からなる水上温泉郷の中で、その中心温泉地が水上温泉だ。
水上温泉は、上越線のJR水上駅近く、利根川上流の渓谷沿いにある温泉街で、開湯伝説として永禄6年(1563年)に湯原建明寺二代目住職の海翁和尚が利根川の崖から立ち上る煙を発見したのが草創と伝えられている。
1931年(昭和6年)に国鉄の上越線が開通するまでは、一帯は隔絶された深山幽谷の雰囲気漂う場所だった。その豊かな自然に惹かれ、歌人の若山牧水が訪れた際、周辺の様子を「みなかみ紀行」に記したことで知名度が全国区となる。また、牧水以外にも太宰治、北原白秋、与謝野晶子など多くの文人墨客が訪れ、温泉情緒と雄大な渓谷美の自然が調和した温泉地として愛された。
上越線開通後は首都圏の奥座敷として注目を浴び、特急列車の運行、自動車道の整備、接続などにより、団体旅行客を多数収容できる県下有数の行楽温泉地として発展した。同時に歓楽的要素も強くなり、バブル崩壊までは飲み屋や娯楽施設などが多く出店し、大規模な歓楽街を形成していた。
現在のようにスキーやラフティングなどのアウトドアスポーツのメッカ的なイメージはつい最近のものだ。
そんな大型旅館やホテルが多い水上温泉にあって、創業当初から小規模な和風旅館として心づくしの湯宿を営んでいるのが松泉閣だ。
水上温泉街の入口からちょっと脇にそれると小さな門が見えてくる。そこをくぐると風流な日本庭園になっていて、間を通る小径の向こうに木造の宿が現れるのだ。
玄関を上がると全面畳敷きのロビーになっている。もちろん内履きは用意されているのだが、旅の疲れも手伝って、思わず素足で歩きたくなる。
チェックインを済ませると、女性はロビーの端に置いてある七種類の浴衣から、好きなものを選んで着用することができる。ロビー横の「リラクゼーションルーム 蛍」は、部屋へ行く前に一息つける憩いのスペースになっていて、ここにも浴衣が置いてありお茶をいただきながらゆっくり浴衣を選ぶことも可能だ。また、日本庭園を臨める窓際には体感型音響システムを搭載したソファ「ボディソニック」が2台据えられていて、風情ある庭園を眺めながら旅の疲れを癒すことができる。壁沿いには宿専属のワインコーディネーターがセレクトしたワインをはじめ、焼酎や日本酒が並べられていて、もちろんこれらは注文して飲むこともできるし、お土産にすることもできる。だいたい21:00頃まで開放されているので、湯上り処として利用することもできるので、なにかと重宝するスペースだ。
リラクゼーションルームで一息つき部屋で荷物をといたら、さっそく汗を流しに大浴場へ。
「松泉閣」の大浴場は全部で3つ。内湯「月光の湯」と「十六夜の湯」、露天風呂の「宝来」だ。「月光の湯」は源泉100%掛け流しの贅沢を味わえる大浴場だ。10人は同時に入浴できる広さがあり、のんびり足を伸ばしながら上質な湯を堪能できる。
「十六夜の湯」は檜が香る内風呂。隣には露天風呂の「宝来」もあり、両方楽しむことができるのが嬉しい。また、「宝来」は御影石の湯舟になっていて、底にローズクォーツやクリスタルなど「パワーストーン」が埋め込まれていている。これは見た目の美しさもさることながら、足の裏を刺激する足ツボマッサージの役割も果たしてくれるという、実用性も兼ね備えているのだ。大浴場は男女の入れ替え制をとっているので、全ての湯舟を楽しんでみるといいだろう。それぞれに特徴があるので、違った趣を味わえるはずだ。「月光の湯」と「十六夜の湯」「宝来」は時間による男女の入替え制をとっている。
こちらの宿の客室は全部で12室。そのうち露天風呂付き客室は4室だ。
1階にある「千鳥」「利久」は8帖+広縁に露天風呂とトイレが付いたタイプ。どちらの露天風呂も源泉100%掛け流しの上質な湯で、いつでも好きなときに湯浴みできるのが最大の魅力だ。
特別室の「末廣」は10帖+8帖+縁側に露天風呂とバス・トイレが付く。残念ながらお湯は温泉ではないが、充分広い間取りや内風呂と外風呂が備わっている造りは、家族や両親を連れての孝行旅行に適している。また、露天風呂は竹の壁やスダレで囲われているので、採光はちゃんと確保しつつも完全にプライベートな空間になっている。露天風呂は好きだけど、開放感がありすぎるのは落ち着かないという方には嬉しい造りだろう。
「呉竹」は8帖+広縁、露天風呂にトイレが付く。陶器の湯舟は若干小さいが、2人は無理なく入浴できる広さを備えている。こちらも「末廣」同様温泉ではないが、4つの露天風呂付き客室の中で唯一山が眺望でき、開放感を味わいながらの湯浴みが堪能できるのが魅了だ。
あとは一般客室となる。「柏木」は12.5帖+6帖+広縁、BT付き。「見晴」は12帖+6帖+広縁、BT付き。「孔雀」「源氏」は15帖+広縁、BT付き。「桐壺」「松風」は8帖+広縁、BT付き。「朝霧」は10帖+広縁、トイレ付き。「夕顔」は8帖+広縁、トイレ付きになっている。全部屋に冷蔵庫とテレビが備わっている。
ゆっくり湯浴みをしてリラックスしたあとは、宿自慢の料理を堪能したい。
女将の須藤初枝さんは、群馬の美味しい食材をもっと多くの人に知ってもらいたいと、「女将シリーズ」と題して様々なこだわり料理を開発している。女将自らが探し出すという厳選された食材を使って作られる料理は、見た目にも鮮やかな創作会席として食卓に並ぶ。
最初は食前酒でスタート。手作りのあんず酒だ。前菜は焼き筍、紅茶の鴨スモーク、フキの砂糖掛け、トコブシ、ミニトマトのクリームチーズ添え、蒸しエビ、枝豆。
続く一皿は女将特製の明太こんにゃく。こちらは「女将シリーズ」で開発された品だ。酢の物は舞茸の錦糸巻きにゴマ酢を添えて。
造里はさくら鯉の刺身。鯉独特の臭みを消すため、飼育の際に海魚の養殖に使う「あみ」を餌として与えている。
添え鉢は、こちらも「女将シリーズ」で生まれた、群馬の地粉のみを使って打ったうどんが出された。モチモチとして柔らかいのにしっかりとコシがある麺は、大変美味。
活オマールエビの特製オリーブソースは、なぜにオマール? という疑問を吹き飛ばしてくれるほど、美味い。ちなみにこちらは別注料理となる。
焼き物は魚と肉の2種類。魚はヤマメの塩焼き、肉は上州和牛のステーキだ。魚は月から8月末くらいまではアユに変わる。
煮物はタコ、こごみ、筍、フキの炊き合わせ。味に厚みを出すためニシンで出汁をとっている。
揚げ物は稚アユ、こごめ、筍の天ぷら。止め椀は魚沼産コシヒカリの白飯に白舞茸のお吸い物に香の物。デザートは手作り杏仁豆腐。
朝食はエビ蒸し餃子、茶碗蒸し、女将特製の湯葉こんにゃく、ガンモドキとジャガイモの煮物、冷奴、焼きジャケ、シラス大根、利根川の川のり、ビーンズサラダ(大豆、白インゲン、小豆)、白米とおかゆ、豆腐とワカメの味噌汁、自家製の浅漬け。食後にはコーヒーか紅茶が出る。
水上温泉は、上越国境の山々に囲まれ美しい自然に恵まれた温泉街だ。街に沿って流れる利根川は川幅も狭まり、見事な渓谷美を見ることができる景勝地としても有名だ。
また、春は新緑、5月からは9月まではラフティングや川遊び、キャンプなどのアウトドア、秋は紅葉、冬はスキーやスノボーといった具合に、一年通して楽しめるのも魅力だ。
そのように見どころ遊びどころ満載の水上温泉だが、「松泉閣」から歩いてすぐの水上温泉街メインストリート「ふれあい通り」も、意外や楽しいスポットである。いわゆる温泉街然とした雰囲気の商店街になっていて、食事処やお土産屋、最近では滅っきり見なくなった射的屋などが軒を連ねている。浴衣のままふらっと散歩するにはちょうど良い距離と規模になっているので、オススメだ。
また、通りの中心辺りにはトラベルインフォメーションを兼ねた立ち寄り湯「ふれあい交流館」もあり、周辺の情報収集もできる。入口には無料で利用できる「足湯」もあるので、こちらも立ち寄ってみては。
もちろんちょっと足を伸ばせば利根川の浸食作用によって作られた自然の彫刻「諏訪峡」や、夜になるとライトアップされ幻想的な雰囲気を醸し出す「水上峡」、水上の玄関口にシンボッリクに掛かる「諏訪峡大橋」から眺める雄大な谷川岳といった、観光スポットも沢山ある。
創業昭和26年の「松泉閣」は、創業当時から小規模の宿として旅館業を営んできた。「清らかな泉に松月を映すような心でお客様と接したい」という気持ちが宿名には込められて、控えめかつ謙虚に、でも細やかに誠意あふれるおもてなしをモットーに、敢えて小規模旅館という形にこだわり続けてきたのだ。
小さい旅館ならではの、だからこそできる痒いところに手が届くサービス。しかし、変にでしゃばらずに宿泊客との距離を常に意識しながら、気が付いたらそこにいるという自然さを心掛けているという。それは旅館にいながら家で寛いでるような、心底リラックスした時間を過ごしてほしいという願いから生まれた、「松泉閣」の接客スタイルなのだ。
また、料理にも一方ならぬこだわりを持った宿でもある。女将の須藤初枝さんは、群馬の美味しい食材をより一層美味しい料理として宿泊客に召し上がっていただきたいと、料理研究に余念がない。実際、自らの足で群馬中を駆け回り、これといった食材を見つけては「女将シリーズ」として新しいレシピを開発しているのだ。お土産にもある「明太こんにゃく」や「湯葉こんにゃく」、「地粉うどん」は、その結果生まれた商品だ。
旅館業に携わる以前は、中華の料理人だったご主人の須藤昭一さん。2年ほど前までは自ら厨房に立ち料理長を務めていたが、今は料理全般のプロデュースを行っている。山里料理と思いきや、オマールエビが出てくる奇抜な発想は、ご主人の発案だそうだ。既成の概念にとらわれず、美味しいと思ったらメニューに組み込む。その柔軟さが、新たなメニューやレシピの開発に、いい影響を与えているのだろう。
女将のこだわりは料理だけではない。1階にはギャラリー「女将の間」があり、色とりどりの鮮やかな内掛けが展示されている。これらの内掛けは、好みのものをチョイスして「着付け体験」(\6,000〜)ができる。
先代の女将から集め始めた内掛けは、現在80着ほどのコレクションになっているという。普段はそうそう着る機会のない豪華な内掛けを着ての記念撮影は、文字通り旅行の良い記念となるだろう。
内掛けのことや水上の魅力、料理など色々話を聞きながら、女将と語らうことができるのも、「女将の間」の魅力の一つなのだ。
夫婦二人三脚で宿を盛り上げ、仲居さんたちがサポートする。家族経営ならではの団結力と、その結果生まれるより良いサービスが、「松泉閣」の最大の魅力だろう。いい意味で付かず離れずの程よい距離感を保った接客は、旅馴れた方や部屋での時間を大切な人と二人きりで過ごしたい方などにオススメだ。
(J/Hr)