慶応2年(1866年)、修行僧・美泉定山が傷ついた鹿が傷を癒しているのを見つけ、湯小屋を建てたのが始まりと言われる定山渓温泉。
「札幌の奥座敷」と言われるこの温泉地は、札幌からクルマで1時間もかからないロケーションの良さとしても人気を集めている
その「定山渓温泉」に飛びぬけた客室稼働率と人気を誇る宿泊施設がある。
「定山渓第一寶亭留・翠山亭」がそれだ。
一歩中に足を踏み入れると、大理石を多用した、重厚かつ、高級感あるロビーに至る。外観の佇まい同様、威風堂々たる雰囲気が漂う。天井の高いホールの奥にフロントが設けられ、その向い側にラウンジ「シルモ」がある。やわらかい灯りに照らされたイギリスのアンティーク家具などの調度品、そしてゆったりと配置された席は、旅路の疲れを癒すのに適した落着いた雰囲気だ。チェックインを済ませたら、まずはこちらでしばしの休息を楽しみたい。
なお、入ってすぐ左手に鎮座する透明のピアノ、これは世界でも2台しか生産されていないもので、もう一台はX-JapanのYOSHIKIが使用しているというものである。
1階のロビー奥にある、昼はお茶、夜はお酒を楽しめるギャラリーが併設された新設のラウンジ、「古窓(こそう)」も是非利用したい。暖炉を中心に配した円形のテーブルを取り巻く席と、個室状に分けられた座敷席とがある。無垢材を利用したチェアやテーブルなど、素朴かつ洗練された素材が、この暖色系の灯りに照らされた静かな空間に一色彩りを加えている。このラウンジにはギャラリーも併設されている。このホテルの所有する窯、「翠山窯」で焼かれた陶磁器が飾られ、自由に鑑賞・または購入もできるようになっているのである。
広い館内の共有スペースは、1階〜3階に集約している。
男女別の大浴場は2階のショッピングアーケードの奥。上階まで吹き抜けになった広大な「飛泉乃湯」と、その上階に設けられた「桂木乃湯」、これらが深夜で男女入れ替えになる。
「飛泉乃湯」は広大な空間の中、内と外あわせて6つの湯舟が配置される大浴場。石、檜、寝湯、ジャグジー、打たせ、サウナと水風呂と、あらゆる種類の湯浴みを堪能することができるだろう。一番奥にある大湯舟は、大人30名が入っても余裕あるほどの大きさがある。扉を抜けたところにも湯舟が2つ設けられており、外光も注ぐ半露天の空間となっている。
「飛泉乃湯」の上階にある「かつら木」の湯、こちらは広さは半分ほどで開放感も「飛泉」には劣るものの、檜、石、ジェット、打たせ、サウナと水風呂が揃う。脱衣所から別の通路を抜けていくと、正面に樹齢300年という桂の大木を仰ぐ露天風呂が設けられている。より季節を感じられる人気の露天風呂だ。
さらにもうひとつ、北海道の大自然と源泉100%掛け流しの温泉を満喫できる大浴場、「森乃湯」がある。これは本館から細い道路を一本はさんだところにある建物で、その名の通り木々の中にひっそりと佇む。内部も昔の湯治場を髣髴させる、男女ともに洗い場と総檜の浴槽があるのみの、シンプルな設えだ。内湯の奥の扉を出ると、正面に豊かな緑を望む岩の露天風呂がある。利用時間は12:00〜22:00と6:00〜10:00、「翠山亭」宿泊客は無料。4・5階、及び「Spa&Esthetique翠蝶館」の宿泊客は1回525円にて利用ができる。
窓の外に迫る緑が爽快なロビーは木の温もりを生かし、山小屋を思い起こさせる雰囲気。旭川のインテリア北匠工房で仕入れた無垢材を用いた家具がこの雰囲気に溶け合う。ここで風呂上りなどにいただく無料のドリンクには、ビールやウーロン茶のほかに、りんごやぶどう、ケールや小松菜など21種類をブレンドした“緑のジュース”と、りんご、キャベツ、小松菜やラディッシュなど18種類をブレンドした“赤のジュース”などが用意されている。
フロント横の階段を上がると、半2階に至る。この奥にあるのが、食事処「松庵」と「桑乃木」。この夜12時まで営業している「桑乃木」は居酒屋のような雰囲気を持つ食事処で、テーブル席や座敷席、大小個室も用意されている。これにより例えば、札幌市内で勤務を終えた後にここに来て、食事と温泉を楽しむ、などという短期滞在スタイルも可能となっているのである。
さらに、ペットルームが備えられているのも特徴的だ。近年ますます需要が高まるペット同伴の旅だが、ここではもちろんそれも可能。小型〜中型犬を預かることができ、ゲージも用意されており、一泊につき1,575円で利用が可能。ゲージ持込の場合、1,050円にて利用が可能である。
この「定山渓第一寶亭留」の近くに女性に嬉しい宿が誕生した。姉妹館の「Spa&Esthetique 翠蝶館」である。
アジアンモダンな雰囲気と、宿名にあるようにスパ・エステ施設が充実している宿となっている。また、医食同源の中国料理とフランス料理を融合した創作料理が評判を呼んでいるという。
全68室の本館、「定山渓第一寶亭留」では、4階〜最上階の7階の4フロアが客室に充てられている。
なかでも6階と7階は「翠山亭(すいざんてい)」と呼ばれる特別室フロアとなっている。
6階のゲストは同じフロアの「翠山ラウンジ」にてチェックインする。
7階のゲストは、客室まで直接通され、手続きする。
つまり下の階のゲストと違う環境を与えられているということで、一種の優越感、クラス感の違いをアピールしている。
この22ある特別客室には、全室に源泉がかけ流しにされる露天風呂が備えられている。自慢の眺めと極上の湯、そして他では得られないプライベート感。この贅沢な空間がこの上ない寛ぎの時間を提供してくれる。
客室タイプも様々で9種類。上記の源泉露天風呂だけでなく、洗面所やトイレなどの水周りにもゆとりある広さが確保されている。定員2名の「717号室」など、最もシンプルな構成といえるタイプの客室でも、ツインベッドの洋間に畳敷きのスペースが併設されるなど、客室にもその最大の特徴といえる“ゆとり”は随所に見られる。
寝室にセミダブルベッドが置かれる和洋室、寝室に加え和室もある和洋室、トイレが二つあり、家族三世代での宿泊も可能な二間構成の和室など、好みと滞在スタイルに合った一室はきっと見つかるはずだ。
もちろん全室の窓からは、定山渓を取り巻く山々や温泉街など、より自然を間近に感じられる光景が広がる。
公式ホームページにはその間取り図も紹介されているので、ご予約の際にあれこれとシミュレーションするのも、宿泊前の楽しみのひとつとなることだろう。
4階〜5階の一般客室も快適な空間となっている。「翠山亭」ほどの贅沢さは無いが、必要最低限の設備は揃っていた。
部屋タイプも様々で、源泉内風呂の付くバリアフリータイプや、二間続きの広々とした客室などもあった。
前述のように「定山渓第一寶亭留」から歩いて数分の距離に、姉妹館の「Spa&Esthetique 翠蝶館」がある。美食とエステをテーマにしたこの寶亭留は、カラダの中から、そしてカラダの外からも「キレイ」になっていただくようなアプローチで営業している。
客室数は全20室。アジアン、和、洋の3タイプ、広さは43uと34uのものが用意されており、好みと予算から選ぶことができるという。
客室には露天風呂やユニットバスは設けられていないものの、洗練されたインテリアの中、必要最低限のものは揃っており使い勝手は良い。エステなど、より女性に向けたサービスの充実を図るこちら別館では、清潔感や利便性に重点を置いた客室の構成ということができそうだ。
43uと広い2室はアジアンルームでセミダブルベッドが2つ置かれる。フローリングの中、小上がりに畳が敷かれ、その上にベッドという設えだ。間接照明が多用されムーディな印象もあるが、別に蛍光灯のスイッチもあるので明るさの調節も可能。窓からは目の前の庭と木々、そして小高い山々が見られる静かな環境にあるといえよう。
他の客室もその清潔感と使い心地はそのままに、趣向のみを異にする。予約の段階で明確にプランニングできるのは別館も同様。滞在のスタイルに合わせた一室をお選びいただきたい。なお、別館に宿泊の場合でも、本館の大浴場「飛泉乃湯」、「桂木乃湯」、そして有料ではあるが、「森乃湯」、4・5階の貸切風呂の利用は可能。送迎も付くが、徒歩でもわずか1・2分の距離にある本館。散歩がてらに、という楽しみも良き思い出になるのではないだろうか。
温泉宿での食事は、やはり旅行中で大きな楽しみを占める要素の一つといえるだろう。総料理長を筆頭に様々なアイデアを取り入れてできあがる各献立からは、やはり大型ホテルならではの安定感や充実感、そしてその幅の広さには「第一寶亭留」ならではの懐の深さが感じられる。
「定山渓第一寶亭留 翠山亭」には、2つの食事処がある。炭火食事処「桑乃木(くわのき)」と個室食事処「松庵(しょうあん)」である。さらに部屋でそのままくつろぎながらいただける部屋食も対応が可能だ。いずれもプランによって利用する場所などが違ってくるので、予約の際に確認していただくといいだろう。
今回の取材時(2008年6月)にいただいたのは、個室食事処「松庵」にて1万円のコースの料理だ。以下にメニューを紹介する。
食前酒は余市の赤ワインか白ワインから選べるようになっている。先付は2種類が出され、1品は短冊状に切られた長芋に雲丹(うに)をのせ、割り醤油を垂らしたもの。雲丹は小樽産で長芋は十勝産のものを使用している。
2品目の先付は氷柱(つらら)状に細工した鮑(あわび)に、蓴菜(じゅんさい)と海ぶどうを添え、美味だしをそそいだもの。鮑の歯応えと蓴菜や海ぶどうの食感がマッチして、非常に美味しい。
前菜は昆布を舟にした上に海老身上を添えた船昆布、無花果(いちじく)胡麻掛け、馬鈴薯とイカの串打ち、沢蟹(さわがに)、カンロ諸味噌和えの5品が並んだ。
お造りは積丹(しゃこたん)産の活〆天然平目、襟裳(えりも)産の牡丹海老、様似産の梅貝と中トロに、あしらい一式と山葵が付く。身の締まった平目、甘みとぷりっとした歯応えが絶妙な牡丹海老、コリコリとした食感が美味しい梅貝、脂ののった中トロと、北海道ならではの鮮度と旨さの刺身が味わえる。
煮物は南京と赤ずいき、里芋、小茄子、ササギ豆の冷し鉢。ひんやりとした食感にしっかりとダシの染みた野菜は、箸がすすむ美味しさだ。
肉料理は北海産和牛の炭火焼だ。仕入れはその時々によって異なるが、主に生田原、白老、平取の和牛を使用している。付け合せはもちろん北海道産のブロッコリーとトウモロコシ。
箸休めは夏柑シャーベット。カチカチに凍ったシャーベットに炭酸水がそそいであり、スプーンで崩しながらいただく。さっぱりとした味わいは、キレイに舌を整えてくれる。
揚物は2種類。まずはタラバガニ、海老、アスパラガス、ズッキーニの天婦羅(てんぷら)。海老はアーモンドがまぶしてあり、香ばしい。
2品目の揚物は胡麻豆腐の揚げ出し。胡麻豆腐の甘みとダシの旨味が見事にマッチして、非常に美味しい。
洋皿はトマトと帆立の胡瓜酢掛け。サラダ仕立てにした酢の物で、揚げ物の後とありさっぱりとした味わいが、非常に嬉しい。帆立は稚内産を使用している。
食事は塩焼きした岩魚がのっかった温かい素麺に自家製の香の物が付く。素麺は道産小麦を使用している。また、仲居さんに頼めば、白いご飯も用意してくれる。
デザートはミルクアイスにぶどうとイチゴを添えて。イチゴは定山渓果樹園のもぎたてをいただける。
また、炭火食事処「桑乃木」は夜12時まで営業している。いわゆる居酒屋感覚で利用できる施設であるのだ。ということは、例えば札幌から会社が終って夜9時過ぎにチェックインしても、ここでならお風呂に入ってからでもゆったりと食事ができるということだ。これは嬉しい。
金曜日の夜にチェックインして、土曜日の朝は寝坊して、日曜日まで連泊してチェックアウトする二泊三日プラン。これが「定山渓第一寶亭留」の賢い使い方かもしれない。
朝食も「松庵」での食事メニューをご紹介する。飲み物はトマトジュース、牛乳、グレープフルーツジュースの中から好きなものを選べる。焼き物も紅鮭、ホッケ、鰊(ニシン)の中からチョイスできる。豆乳ガンモの煮物、イカさし、挙げ蒲鉾(かまぼこ)、自家製豆腐、納豆、塩辛、有精卵の生卵、タラコ、梅漬けに白米とお味噌汁、漬物が並んだ。デザートはヨーグルトのフルーツ添え。
別館である「翠蝶館」の食事は、1階にあるレストラン「翠苑」でいただく。こちらの食事は本館とは異なり、薬膳中心の中華とフレンチをミックスさせた創作会席。ガラスや和紙などでゆるやかに分けられた、半個室でいただく中華・フレンチミックスの創作料理。氷彫刻を得意とし、世界大会での優勝経験もあるという料理長、早坂秀春さんの手がける見た目にも美しい品々は、この洗練された佇まいとよく調和し、また静かに流れるここでの時間をより濃厚に引き立ててくれることだろう。
赤ワインか白ワイン、お好みで選べる食前酒には余市ワイン。続く先付けには二品。まず、とうもろこしの粉を糸状にして揚げた牡丹海老のフリチュール、これにはエストラゴンという酸味あるハーブの香りが漂う、海老の頭で出汁をとったクリームソースとの相性がよく、ほんのりと甘い口当たりが印象的だ。もう一品のガラスボウルに盛られるのはミニトマトやブロッコリー、カリフラワーなどの生野菜と胡麻風味に和えられたくらげ。どちらもやわらかい口当たりと高い香りが楽しめる。
ガラス皿に載せられた前菜は4品、ベビーオマールの冷製・苺ビネグレットソースがけ、知床地鶏の麻辣ソース和え、根室産帆立貝のかきソース掛け、和風仕立ての牛肉と春菜の冷製ジュレ。北海道の食に独自のアレンジを施したもので、いずれも一口サイズで食べやすい。またそれぞれに異なる風味が取り入れられ、味はもちろん、口当たり、色合いなど、繊細な盛り付けと豊かな彩りも併せて楽しみたい。
スープはこの日、とうもろこしのポタージュ・カプチーノ仕立て。上に載せられたのはコーンせんべいだ。とうもろこし独特の甘みと香りはあるが、さっぱりとした後味が特徴。これはとうもろこしに道産牛乳を混ぜ、さらにホイップのようにミキシングすること(=カプチーノ仕立て)でまろやかさを生み出した、工夫の品といえよう。
メインは魚料理と肉料理、二種類が一皿に並ぶ。
魚料理にはすずきのポアレ。ソースの余市白ワインと道産クリームと焼き目の香りがからみあい、添えられた積丹産雲丹(ウニ)と溶け合うような味わい。付け野菜には道産のインゲンとササギ。さらにその下に敷かれたのは、“ななつ墨”と黒米をブレンドしたリゾット。さらにツブ貝を加え、コク味と歯ごたえ、香りにもアクセントのある仕上がりとなった。クリームソースともよく馴染み、重みを感じさせない一品であった。
もう一品、肉料理は富良野豚肉と野菜の甘辛四川ソース。前年より使い続けているというこの素材は、バラ肉だが脂分も甘く、その濃厚な味が楽しめる。リボン状にかつら剥きにされた野菜、ニンジン、きゅうり、レッドオニオンの素材そのままの味わいが、豚肉の味をうまく引き立てている。醤油、お酢、豆板醤、ラー油というさっぱりとした味付けの甘辛ソースでいただく。
お食事には意表を突いて胡麻風味の冷やし麺。満たされたお腹にもすんなりと入る麺類は、食事の締めにぴったり。薄味ながら香りある胡麻の風味が鼻に抜ける、夏らしい爽やかさのある一品だ。量で物足りなさを感じる男性でも、ここで調節をすることができる
デゼール(デザート)には、湯せんでカップにチョコを詰めて焼いたショコラプディングと、赤ピーマンのアイス・オレンジとマンゴのピューレソースがけ。プディングのしっとりとした歯ざわりと、ベリー系ソースの酸味と甘み。意外性に満ちた素材の活用とアレンジ。健康と食のバランスに配慮するだけでなく味も追及したここの食事の、醍醐味ともいえるデザートである。
食後にはオーガニックコーヒー。お好みで中国茶(牡丹茶)とどちらかをいただくことができる。
朝食も夕食同様、中華と洋とがミックスされた内容。クコの実を乗せた薬膳風の玄米おかゆに卵のスープ、これらはお変わりも自由にできる。胡麻ドレッシングのサラダにフルーツヨーグルト、卵料理はスクランブルエッグなど数種類から選ぶことができ、ベーコンが添えられている。パンはシナモンロール、バターロール、クロワッサンが並び、またドリンクにレッドオレンジジュースと倉島牧場産の牛乳とオリジナルブレンドした臭みの少ない青汁という3種類が楽しめる。
朝食時に楽しめるお茶は黄金桂茶。清々しい目覚めを演出してくれる朝食だ。
別館では客室以外にも、地下1階に内湯と露天風呂、ミストサウナを備える男女別大浴場、コーヒーや紅茶のセルフサービスがあり、吹き抜けが開放感をもたらすロビー、そして上記レストラン「翠苑」と様々な施設が用意されているが、やはり特筆すべきは、やはりそのエステサロンだ。
広々としたスペースには各所にソファが設けられ、まずここでカウンセリングを行う。マッサージチェアも3台置かれており、混み合った際などの待ち時間に利用すると良いだろう。人気のアロマトリートメントルームはシングルが2室、ダブルが2室、全部で4室用意されているので、一人でも、友人同士でも、カップルでも楽しめると好評だ。他にも整体やタイマッサージ、フットリフレクソロジー、ネイルサロン、アロマテラピー酸素バーや岩盤浴も併設されており、多方面から美容と健康、そして“デトックス”のお手伝いをしてくれるのである。定山渓に限らず、札幌市内でも最大級の広さと設備を備えるこのエステサロン。エステのみならずさらに温泉浴もできるとあって、一般の観光客だけでなく、札幌市内からのお客も多いそうだ。
多様なメニューが用意されているので、詳細は公式ホームページなどもご参照いただきたい。
お土産は2階のショッピングアーケードにあるショップで見つけられるだろう。広大な敷地の土産物屋には「白い恋人」など馴染み深いものから、お茶請け菓子としても出されるオリジナル茶菓子、「翠蝶の舞」や「牛蒡せんべい」、「チーズケーキ」などが並ぶ。中でもオススメは「定山渓温泉 美泉みすと」。これはミネラル豊富な温泉水をそのまま缶に閉じ込めた、不純物ゼロの化粧水で、スプレーとして使用できるもの。肌に保湿効果を与え、風呂上りのような感触が得られるという。1本1,050円にて販売されているので、是非お試しいただきたい。
さらに、そのアーケードに設けられている「オリエンタルギャラリー」では、ホテルが持っている窯「翠山窯」で作られている陶磁器が並んでいる。お椀やマグカップ、お香立てまで、サイズも種類も様々な品揃えである。ちょうど大浴場の湯上りついでに見て廻ることのできるこのアーケードで、旅の思い出となるグッズを探してみてはいかがだろうか。
第一寶亭留グループを率いるのは、布村俊雄社長(昭和28年生まれ)。
北海道・定山渓温泉で「定山渓第一寶亭留・翠山亭」「Spa&Esthetique翠蝶館」「翠山亭倶楽部 定山渓」。
支笏湖で「支笏湖第一寶亭留・翠山亭」「支笏湖翠山亭倶楽部」。
その他、ニセコで「ニセコワイス寶亭留」。富良野で「フラノ寶亭留」。
現在、合計7つのホテルを運営している。
そのホテルに共通するのは、上質な空間。センスのいいインテリアと設えの妙。
大衆的な観光ホテル的な香りは一切感じられず、ワンランク上の品位を醸し出す。
景気が低迷していると言われている北海道でも、このホテルグループは現在でも躍進を続けている。
創業は昭和32年。先代の創業者、父・久雄氏によって「定山渓第一ホテル」が誕生した。
布村俊雄社長、4歳の時である。
時はたち、大学卒業の頃には「定山渓第一ホテル」は現在と同じ70室規模になっていた。
平成7年、先代が亡くなり、俊雄氏は社長に就任することになった。42歳の頃である。
日本経済もバブルがはじけ、企業家にとって目の前が見通せない、暗闇の時代に社長となったわけだ。
そして、周辺環境を見直し、じっくりと地べたに根を張るようにした後、社長就任7年目に大きなステップを踏むことになる。
平成14年、当時120室まで増えた客室も、団体旅行者から個人旅行客へのシフトを考え、70室に落とし(現在は68室)、その代わり部屋の間取りも広く取り、さらに客室露天風呂を新たに備えて、「定山渓第一寶亭留・翠山亭」と改称したのだ。
同時にこの年、支笏湖の旅館を買収し、リニューアルを施した後「支笏湖第一寶亭留・翠山亭」をスタートさせた。待望の2号店でもある。
この時、ホテル名を「寶亭留」と改称したわけだが、これは、昭和32年の創業の頃、篆刻家(てんこくか)で書道の大家であった関野香雲(せきのこううん)(1887-1959)が、このホテルに滞在した折、居心地の良さに満足し、「第一寶亭留」と書いたことに由来する。
長い間、大事に保管されていたその書は、ある日偶然に社長の目にとまった。
旅館の持つおもてなしの心と、ホテルの持つ快適さを提供していきたいとの願いを見事に表現した文字に社長は感銘し、後に社名も変えることになったという。
そして、この個人旅行客シフトの戦略が当たり、それから多店舗展開が加速する事になる。
平成16年10月に、大手企業の保養所を買い取り、「支笏湖翠山亭倶楽部」をオープン。同時に「ニセコワイス高原温泉山荘緑館」(旅館を買収)もオープンさせた。
平成17年には社名も「株式会社第一寶亭留」へ変更。
同じ年の6月、生命保険会社の保養所を買収し「翠蝶館」をオープン。
また同年7月、「ニセコワイス高原温泉山荘緑館」を「ニセコワイス寶亭留」とし、グランドオープンした。
平成18年7月は「フラノ寶亭留」(元・損保会社の保養所)を、平成19年11月には「翠山亭倶楽部 定山渓」(元・損保会社の保養所)がオープンした。
このように順調に企業として成長を見せているが、社長自身、相当なご苦労、そして計算をしながら経営の舵を取っていたに違いない。
定山渓に関しても、温泉地のリーダーでもある布村社長は、不景気による企業保養所の閉鎖や旅館の廃業による、ゴーストタウン化を防ぐ意味でも、その建物を買い取り、現代の顧客の要求に応えられるような施設に改装し、結果的に温泉街の再生、活性化に役立っている。
さらに、布村社長は、宿泊すれば同じ旅館で一泊すれば、そこで夜と朝のご飯を食べるといった“常識”にとらわれず、いわゆる“泊食分離”を推し進めている。
それにより、食事に変化を持たせる事により、一泊二日が“常識”であった温泉旅行を、連泊してもらう、いわゆる“滞在型”旅行に切り替えていただくような狙いもあるのだ。
定山渓にある第一寶亭留グループの3施設に関しても、本館で懐石料理か炭火焼の食事処、「翠蝶館」でフレンチと中国料理のミックスの創作料理、「翠山亭倶楽部」で鉄板焼グリルレストランか懐石料理・・・といった風にバラエティに富んでいる。
これならば、連泊しても飽きがこないし、実際にステイ型の宿泊客が増えているという。
第一寶亭留グループにもう一人欠かせない方がいる。社長の奥さんであり専務でもある布村佳子さんだ。“女将”ではなく、“専務”としているのは、格好も和服ではなくビシッとしたスーツ姿だから、というだけではない。
やはりそれは「第一寶亭留」という文字にも表されているように、ホテルと旅館のお互いのいい面をバランスよくゲストに提供する気持ちから、積極的に前に出て行く伝統的な女将スタイルをやめているからだろう。
インテリアコーディネーターの資格を持つため、外部のコーディネーターに頼らずとも、家具、オブジェ、陶器類などをセレクトし、館内の雰囲気に調和させてしまうのである。
これも第一寶亭留の人気の秘密のひとつになっているのは間違いない。
ここでご紹介した「定山渓第一寶亭留・翠山亭」は、ご家族連れ、ご夫婦など幅広い層に向いていると思われ、スパ施設が充実している「翠蝶館」はやはり女性に支持されるような要素が多く含まれている。男性同士の宿泊はお断りというコンセプトも明快だ(もちろんご夫婦、カップルはOK)。
今回ご紹介できなかった「翠山亭倶楽部 定山渓」はご夫婦、カップルお二人様向けの大人の空間が人気となっているという。
いずれの施設にせよ、卓越された質感のいい空間が用意されていて、居心地の良さは同エリアの温泉旅館ホテルから比べると一歩先を行っている感はある。
山の中の温泉に「リゾート」のエッセンスを散りばめたこの「寶亭留」の人気は当分続くに違いない。また世の中の情勢が変ろうとも、即座に業態を変えてしまうようなフットワークの軽さも「第一寶亭留」には備わっているような気がする。(J/eb/Hr)