大手旅行代理店JTBは、2007年度のサービス最優秀旅館とホテルを、提携旅館ホテル連盟に加盟する約4300軒の中から4軒を選出した。
そのうち、大規模施設の旅館部門で「大谷山荘」が選出された。
主に利用者のアンケートに評価されたものだが、全国津々浦々の名旅館がラインナップする中、1位になるということは、相当な事だ。
平成2年から、4代目社長として「大谷山荘」を率いているのは、大谷峰一さん。
その大谷社長が構想5年をかけて完成させたのが、「別邸 音信」なのだ。
「別邸 音信」は、「大谷山荘」の旧館・和光館跡に建設された。着工は2006年1月で、オープンは同年12月28日。建設に、ほぼ1年を要した。
鉄骨・鉄筋コンクリート造り地上3階建て、地下1階(駐車場)。延べ床面積は約8,000uとなる。
旧・和光館が36室と10の宴会場を抱えていたのに対し、「別邸音信」は客室を18に抑え、空間を広く使っているのが分かる。
総投資額はなんと25億円にのぼるという。
客室数18に対し、この投資額というのは、なかなかできないチャレンジだ。
そこには大谷社長が長年経営してきた「大谷山荘」で、いくら改装しようが、新しく部屋を造ろうができなかった事を実行するには、そのぐらいの金額が必要だったのだろう。
「旅館の延長線上にない新しい発想の小旅館」(大谷社長)を造りたいという気持ちで、「別邸 音信」を誕生させたのだ。
そのコンセプトのひとつが「旅館のくつろぎにホテルの機能性をプラス」すること。
寝るのはベッドがいいけど、畳の上でゴロゴロしたい。
食事は和食がいいけど、たまにはフレンチもいただきたい。
部屋でゆったりと過ごしたいけど、館内には充実した施設があってほしい。
・・・など、十人十色の趣味志向があるように、宿も一頃のように団体旅行客ではなく、個人客中心にシフトしていく中、ある程度の客のわがままに対応しないと生き残れない時代となってきたのだ。
「大谷山荘」とは、渡り廊下でつながれているが、エントランスは別。
「別邸音信」から「大谷山荘」に行って天体ドームや大浴場、カラオケ、夜食処などの施設を利用することはできるが、「大谷山荘」から「別邸 音信」には行けないようにして独立性を保っている。
ハード面から見れば、「別邸 音信」はまさに時代にフィットした新しいカタチの温泉旅館と言える。

そしてこの宿は、インテリア、エクステリア、調度品など多岐に渡って、センスの良さは充分に感じ取れる。
しかし、最近の安普請で建てたデザイナーズ旅館と比較すると、この宿の本物志向が分かってくる。
その第一の要因は壁にあると見た。
パブリックのスペースだけでなく、客室にも高価な"石"が、壁材として惜しげもなく使われているのだ。
栃木県産の大谷石、香川県産の御影石、中国産の御影石、インド産御影石、イタリア産の大理石、スペイン産の大理石・・・などが館内に散りばめられているのだ。
それがこの宿の高級感を演出しているし、重厚感と同時に、一種の安心感もゲストに与えてくれているようにも感じた。
もちろん、ハード面だけでは宿は継続していけない。前述のように「大谷山荘」がサービス最優秀旅館に選ばれたように、「別邸 音信」もホスピタリティは充分に満足できるはずだ。
全国の名だたる老舗旅館と比べると、若いスタッフが多いように思うが、逆に新鮮味と一生懸命さが伝わってきて心地いい。「素朴さ」と「素直さ」が感じ取れるのだ。
若いということは、それだけ"のびしろ"があるという事でもある。
ちなみに、現在支配人をしているのは、やはりお若い、大谷社長のご長男の和弘さん(昭和54年生まれ)。
「日本旅館でしか味わうことのできない、世界に誇れる”おもてなし”を・・・」(大谷和弘支配人)を、常に考えているからこそ、この宿はこれからも成長していくに違いない。
「別邸 音信」は、本州の一番西の果て、山口県にある。
関西ならまだしも、首都圏から来館するには少し遠い距離にあるのは確かだ。
しかしながら、オープンしてから徐々に全国から遠距離客が増えているという。
それは、中国地方屈指の高級旅館との評判もさることながら、その上質な空間と贅沢な時の流れを体感できるからに違いない。
逆に、九州にお住まいの方は、源泉が豊富な温泉地が数多く点在しているため、山口方面には目がいかないということも聞いたことがある。
しかし、それではもったいない。是非、九州にお住まいの方も一度この宿を訪れて欲しい。
海外の高級リゾートホテルの一面を見せながら、古き良き和風温泉旅館の顔もあるこの宿には、新しい発見があるはずだ。
客室の窓からは、温泉街や民家、そして国道が通っているため、風光明媚な絶景が見えるというロケーションには恵まれていない。
しかしながら、それ以上にこの宿は内面の充実を見せる努力をしている。
だからこそ、これからの「別邸 音信」が非常に楽しみなのだ。他の追随を許さない設備は、いかにも高品位なサービスを提供してくれるはずだ。
萩・津和野など全国的な観光地であるエリアは、吉田松陰、高杉晋作、桂小五郎など幕末の志士を数多く輩出した長州藩の地でもあり、毛利元就を中興の祖とする毛利家代々の土地でもある。
近くには戦国時代、陶晴賢(すえはるかた)が謀反をおこして大内義隆が自刃した古刹、大寧寺もある。
そんな歴史ロマン溢れるこの地に、「別邸 音信」が誕生したのだ。
ぜひ、この宿の空間に身を置きながら、この地ならではの空気も感じて欲しい。
そして、宿泊料金のいかに妥当であるか、納得させられるはずだ。
個人的には、これほどの贅沢な時間と空間を見せられれば、なるほどと思わざるを得ない。

大谷支配人は、2009年の「別邸 音信」のテーマを「湯治モダン」と話してくれた。
あくまでも和を基本に、アジアのリゾートの開放感とホテルの機能美に、さらに温泉宿屋としての原点である「湯治宿」をイメージとして取り入れたのだ。
そこで、湯治=長期滞在とまではいかなくとも、連泊をしていただくことで、このコンセプトに辿り着いたという。
一泊最低でも3万円後半はかかる高級旅館で、湯治というのはどうかと思ったが、それには理由があった。
2009年春より、18室の客室露天風呂すべてが、「源泉100%かけ流し」となったのだ。
しかも、pH9.67というアルカリ性の温泉は、女性に喜ばれる美肌の湯なのだ。
それが滞在中に、好きな時間、好きなだけ体感できるのだから、「湯治モダン」のコンセプトも説得力がある。
全国に存在するハイクラスと言われる小規模型の温泉宿で、これだけ魅力溢れる要素を持っているのは数少ない。
全室に露天風呂を備えながら、循環ろ過をしない源泉100%かけ流し。
食事は日本料理、フレンチ、鉄板焼から選べる。これなら連泊も可能。
岩盤浴、エステ、バー、ライブラリー、フィットネスジムなどの充実したパブリック施設。
客室は、全室ベッドが用意されているが、座ったり寝転んだりできるスペースも確保。
部屋によっては、独立したホームシアターも備える。
場合によっては、隣の「大谷山荘」の大浴場や付帯施設で寛ぐ。
・・・などと、これ以上考えられないほどの、強力なスペックを「別邸 音信」は所有しているのだ。
また、この宿は12歳以下のお子様は利用できない。
これらの静寂のゾーンは、大人だけの極上のプライベート空間となっている。
「別邸 音信」のチェックインは14:00。
できれば、その時間には宿に入って、この空間に身を委ねて欲しい。
これからの日本旅館の在り方を、この宿は必ず教えてくれるはずだ。(J)