伊豆のほぼ中央部、天城の山中にある湯ヶ島温泉は、由緒ある温泉地として知られている。特に、文人から愛されたことで有名で、川端康成の「伊豆の踊子」、井上靖の「しろばんば」、尾崎士郎の「人生劇場」などをはじめとする数多くの作品が、この温泉地に長逗留して作品が書き上げられたそうだ。
前述させていただいた川端康成が「伊豆の踊子」を書き上げたのがこれからご紹介する「湯本館」である。
大浴場は男女別に備えられている。木々に囲まれて建つ「湯本館」なので、大浴場も窓を開けてしまえば、森林の中にある半露天風呂のような雰囲気。遠くに聞こえる狩野川のせせらぎの音も、よりリラックスした湯浴みに誘ってくれるだろう。どちらの温泉も、泉質は「カルシウム・ナトリウム-硫酸塩温泉」。47℃の源泉が100%掛け流しにされている温泉には、ゆっくり時間をとって入ってほしい。
客室は、特別室から一般客室までタイプが分かれている11室。どれも、「湯本館」の落ち着いた雰囲気に合った和室だ。木々に囲まれているので、どの部屋からも湯ヶ島の自然に触れることができ、リフレッシュするには最適のお宿だと思う。また、狩野川のせせらぎの音も聞くことができることも追記しておきたい。
中伊豆の湯ヶ島温泉に位置しているので、料理には新鮮な魚介類だけでなく、旬の山の幸もふんだんに盛り込まれている。山海のバランスが取れた献立の夕食は人気が高い。朝食にも、「鯵の干物」や「山葵漬」など、伊豆の名産品が盛り込まれている。
館内で必ず立ち寄ってほしい場所は、川端康成が「伊豆の踊子」を執筆した3帖間を資料館として保存する「川端さん」だ。3帖間という狭い空間の中に、直筆の原稿や書をはじめとする資料が所狭しと展示されている。もちろん、この部屋だけに収まらない数の資料があるので、館内の至る所に川端康成や彼の代表作である「伊豆の踊子」に関連する数々の展示物が飾られている。文豪・川端康成のファンならずとも、必ず楽しむことができるだろう。
「湯本館」の隣には、古くから地元住民に愛されている共同浴場「河鹿の湯」がある。250円で入湯できるこの共同浴場には、レトロな雰囲気が漂っている。浴場の真ん中には、5人ほどが浸かれる小判型の湯舟が置かれ、その湯舟に、親子カエルの湯口から無色透明の湯が蕩々とかけ流されている。気持ちよく湯浴みのひと時を楽しむことができるだろう。13:00〜22:30の間、日帰り入浴が可能だ。水曜日は定休日なので注意してほしい。
川端康成の愛したお宿は、その当時の姿を今も色濃く残している。狩野川沿いの露天風呂、木々に間近に接することのできる和室、自然と共存するかのように存在するその姿は、必ずや訪れる人を魅了することだろう。出来ることならば、このままの姿をずっと在り続けてほしいと思った。