伊豆半島の付け根が熱海だとしたら、そこから数キロ、伊豆半島に南下すると網代地区となる。小さな漁港があり、干物の売店も建ち並ぶ、懐かしい感じのする海辺の街並みだ。その海に面した国道から、山側の道に入り、急坂を数分昇っていくと、「海のはな」が現れてくる。
みかん畑を横目に見ながら、宿に着き、海側に振り返れば、そこは相模湾を一望のまさに絶景が広がっていた。
ロビーに入っても、そこからも網代の街を手前に見て、左手に多賀地区、そして相模湾の先には熱海温泉も望めるランドスケープが用意されていた。
宿名の「海のはな」の由来は、実は海の上に打ちあがる「花火」から取った。今では夏以外でも年中楽しめるようになった熱海温泉の花火大会が、この宿ではラウンジから、客室から、湯舟に浸かりながらと、様々なシチュエーションで楽しめるといった、嬉しいロケーションでもあるのだ。
チェックインの手続きを済ませば、客室に直行となる。ここは、全7室の小さな宿。特徴的なのは大浴場が存在しないということ。しかしながら、すべての客室に専用の露天風呂が備わっている。さらには、無料で利用できる貸切露天風呂もある。
パブリックの施設はラウンジぐらいで、つまり、この宿は部屋単位で寛ぐ、いわゆる「お篭り」宿と言える。大事な人とゆったりと時間を過ごすための宿なのだろう。
2階建てのコンパクトな造りだが、前述のように急坂を昇りきった丘の上という立地にあるため、眺望はすこぶるいい。もちろん、客室からも当たり前のように見晴らしはいい。
2階に貴賓室2室、特別室2室の計4室。1階に標準タイプ3室・・・の全部で7室といった構成となる。
まず、貴賓室2室から紹介しよう。まず「貴賓室」というネーミングだが、これは2007年にリニューアルしたばかりの、この宿最高級グレードになるわけだが、その前に「特別室」を改装してしまった後だったので、それより上のイメージということで「貴賓室」と名付けたとの事。
貴賓室2つのうち、まず「海」からご説明すると、間取りは和室10帖+洋室8帖(ツインベッドルーム)の構成で、広々としたテラスには、檜風呂と信楽焼の2つの露天風呂が付く。和室には掘りごたつタイプのテーブルが備えられていた。また、32インチの大型液晶テレビにDVDデッキもあり、枕も数種類、準備されていた。
もうひとつの貴賓室「月光」も広々している。琉球畳(9枚)を敷いた4.5帖和室+ツインベッドルーム(洋室・15帖)+パウダールームの間取りで、テラスには信楽焼の露天風呂があり、畳敷きの洗い場のある檜の湯舟は内風呂となる。こちらも、32インチの大型液晶テレビにDVDデッキを備え、枕も数種類あった。
「特別室」も2室ある。まず「太陽」だが、和室10帖+広縁に檜の露天風呂が付く間取りだ。内風呂は無し。「貴賓室」同様に32インチの大型液晶テレビにDVDデッキを備える。
「月」もほぼ同じ設えで、和室10帖+洋室5帖に信楽焼の露天風呂が付く。内風呂は無し。こちらも32インチの大型液晶テレビにDVDデッキを備える。
1階は標準タイプの露天風呂付き客室となる。すべての客室には20インチ液晶TVにDVDデッキを備える。内風呂は付かない。
「大地」は、和室8帖+畳のテラス+畳敷きの露天風呂(湯舟の中も畳敷き)付き。「虹」と「風」は、和室8帖+ウッドテラス+檜の露天風呂の構成となる。
2階の「貴賓室」「特別室」の定員は2〜4名。1階の部屋は2〜3名となる。いずれにしても、この宿は部屋で過ごす時間が圧倒的に多いため、予算が許せるなら、やはり「貴賓室」もしくは「特別室」がオススメだ。
取材時(2008年4月上旬)の夕食のメニューは「卯月料理潮騒会席」と名付けられたもの。ちなみに料理で使うお皿は、ほとんどが美濃焼だとの事。社長の奥さんが岐阜出身ということが起因する。
食事はお部屋でいただくことになる。
まず、先付けは、鰯(網代港)の柔らか煮、卯の花和えに、なた豆の花(甘酢漬)を添えて。
向附けは、地魚の盛り合わせ6品。イサキ、赤貝、金目鯛、ヒラメ、アオリイカ、そしてマグロ(インドマグロ)。マグロ以外はこの辺りの魚。
大皿盛は、牛アスパラ巻、めぼう磯辺揚げ(イカの軟骨(目の近く)青海苔)、蟹シューマイ(ホワイトソース・ズワイカニ・かまぼこの素をまぜてシュウマイを作る)、法連草チーズ(生ホウレン草をゆがいてすってかまぼこの元と合わせチーズをはさんだ)、大葉鶏味噌(味噌にとりのきざんだものをいれねったのを大葉ではさんだ)、海老黄身焼(味噌に味付けして油つけして油で和えて車エビにぬって焼いた)、雲丹焼丸十(ねりうにをぬって焼いたサツマイモ)、サーモン砧巻(絹のように巻いた大根)。
強肴は、伊勢海老の選択料理。2つの調理方法から選ぶ。ひとつは、甘酢和えで、胡瓜とパプリカを刻んだものをのせて。もうひとつは、黄金(こがね)揚げ。蓮根きんぴら、明日葉の天ぷらといっしょに、ゆず塩でいただく。
蒸し鉢は、茶碗蒸し。中身は、海老、椎茸、銀杏、筍、三つ葉が入っていた。
中皿となるメイン料理も選択制となる。ひとつはローストビーフ(国産和牛・静岡か山梨)で、クレソン、そしてじゃがいも揚げ・ジュレ(焼いた肉汁をゼラチンでかためたもの)が添えられていた。
もうひとつは、太刀魚のバター焼き。タルタルソースでいただく。こちらも地の魚。サラダ菜、杏、玉葱リングの天ぷらも添えられていた。
酢の物は、蛍烏賊の酢味噌掛け。この時期が旬となる。
止め椀は、西京味噌仕立て。庄内豆腐(庄内ふを蒸して開いたものに豆腐を湯通しして、汁をきって、すだれでまいて蒸したもの)とかつら椎茸(ひもかわ椎茸ともいう)と水菜が入っていた。
ご飯は、生姜御飯。コブだしで炊いたもので大葉が入っていた。
香の物は、大根、人参、胡瓜のぬか漬け。
オリジナルデザートは、ティラミスとフルーツ(キウイ・パイナップル)の生クリームイチゴソースがけだ。
朝食もお部屋でいただくことになる。
この日のメニューは、金目のあら煮・大根、ポテトサラダ、八幡巻き(ごぼう・にんじんを鶏肉でまいた)・カボス添え、青のりを砂糖・みりん・醤油で煮たもの、だし巻き卵、そして、漬物(なす・キャベツ・にんじん)に味噌汁(夕食時の伊勢海老を使った)。
面白いのは手巻き寿司が用意されてあった。ねぎトロ、イカめんたい、ツナサラダが具となる。
メインの焼き魚は、前日の夕食時にスタッフにお好みの魚(干物)を聞かれる。この日は、アジ・エボダイ・カマス・鯖のみりん干し・銀ダラ・塩サケの6種のうちからの1つ選択できるシステムとなる。ちなみにこの日の地の魚はアジ・エボダイ・カマスということだったので、取材者2名はそれぞれ、アジとカマスを選択した。
デザートは、ヨーグルト(キウイ・バナナ入り)マンゴーソース。
この宿の「眺望」「全室に露天風呂」「料理」そして、もうひとつの魅力は社長の奥さん自ら手がけるエステだろう。「アロマハンドリラックス」と名付けられたその内容は、植物から得られるエッセンシャルオイル(精油)を用いてリンパドレナージュ&リフレクソロジーで体液・血液・リンパ等の流れを助け心と体のバランスを整え、免疫力と自然治癒力を高める・・・といったもの。
メニューは、フルボディ90分13,000円。ハーフボディ(上半身)60分8,000円。フット60分8,000円。フェイシャル60分8,000円など。女性専用となるが、是非予約して極上の時間を過ごしてほしい。
お土産品は、やはり土地柄、干物を求めるお客様が多いとの事。その他、お菓子も数点用意されているが、「海のはな」オリジナルの日本酒やワインも人気となっている。
オーナー宗村俊和氏(昭和42年・兵庫県生まれ)は、平成15年、当時35歳の時、業者から「海のはな」の前身である旅館を紹介された。オーナーは一目で、この眺望を気に入り、契約してしまった。
その後、すぐに数千万円をかけて改装を施し、オープンにこぎつけたわけだ。
実は宗村さんは、この宿がスタートではない。実は名古屋、東京とサラリーマン生活を続けていたところ、コツコツと貯めた貯金を元手に、28歳にしてペンションのオーナーとなる。それも下多賀で2つ、伊豆高原で1つと合計3店舗まで広げたが、ペンションブームもかげりをみせはじめたため、和のテイストの宿を始めようと物件を探していたところ、後に「海のはな」となるこの建物と、運命的な出会いをするわけだ。
「露天風呂付き客室」「貸切露天風呂」・・・と最近の個人旅行を考える人たちにとって、必要不可欠なハードは揃っている。そこに自分の庭の池のようにも見える相模湾と熱海まで見渡せるパノラマという付加価値も備え、現在は非常に高い客室稼働率を誇っているようだ。
先に「お篭り」系の宿と書いたが、そのような宿にありがちな、不倫カップルばっかりの、ちょっと隠れ宿的な雰囲気はあまり感じられず、なにか清々しい、明るい空気がこの宿には流れている。
それは、まだ若いオーナー氏と3歳年下の奥さんとの、パートナーシップによるものや、このご夫婦のキャラクターからくるものだと容易に推測できる。
ご夫婦の「真面目さ」が、そのままこの宿に反映されているのだ。それは数時間この宿に留まれば伝わってくる。スタッフも少人数ながら、まとまりもよく、システマチックに仕事をこなしているが、どこかアットホームな温かさも感じ、居心地もいい。
現在のメインの客層をオーナーに聞くと、やはりご夫婦、カップルが主流らしいが、ここにはエステもあるし、部屋に露天風呂もあるし、女性グループにも非常にアピールできる要素も持っている。
地中海を高台から望む南フランスの小さな宿の雰囲気を醸し出すのは、夜景を見た時だろう。昼間とは違って、また別の感動を覚えるかもしれない。
伊豆、特に伊豆高原など東伊豆地区にはこちらのオーナーのように脱サラして独立して宿を始めたところも多い。しかしながら、なぜか今、経営的に苦戦しているところも多いのも事実だ。それは旅館というものを100%ビジネスとして、考えているからかもしれない。東京という大消費者圏にいながら、稼働率が悪いなどと弱音を吐いている旅館経営者が多いのは、宿という存在が、人を泊める場所であるという基本的な考えを忘れてしまっているような気がしてならない。
「海のはな」に泊まって感心したのは、宿を営むということは、ビジネスという要素だけでなく、お客様に満足してもらおうと、そしてリピーターになってもらおうと、一生懸命になっている点だ。
この一番大事なマインドを忘れなければ、この宿の将来は非常に明るい。
あなたも、是非この宿の清々しい空気を全身に浴びていただきたい。(J)