"昼神"という地名には、どこか神秘的な響きを感じる。その由来は2つ伝えられており、一つは、日本武尊がここを通りかかったとき、山の神が化けた白鹿に道をふさがれ、口に噛んでいた蒜(ヒル)を投げ付け退治したことから「ヒルガミ」と呼ばれるようになったという説。
もう一説は「天の岩戸伝説」で天照大御神を外に出させる案を思いついた、知恵の神「天思兼命」がこの地域に祀られているから、昼の明るさを取り戻させた神にちなんで名付けられたとされる。いずれにせよ、古代からの歴史と深く関わりを持つ地域といえる。
「石苔亭いしだ」は、そんな昼神温泉郷に昭和59年に誕生した。
平成元年に改装し、現在は若旦那と若女将である逸見(へんみ)夫妻をはじめ、先代からの料理長や若いスタッフたちによって切り盛りされている。
南信州の会席料理や、和の趣がある館内、そして個性ゆたかな客室があり、昼神では大変な人気を誇っている。
宿に到着すると、堂々たる門と大きなけやきの木があった。この木は樹齢約800年を迎える銘木だ。霜月祭りで有名な遠山村のがれきの中で、一度は伐採され根株だけが残ったが、大きな岩を抱き込むようにして立派に生き続けたという歴史を持っている。その力強さを称え、この宿のシンボルとしてここに移されたそうだ。
入り口では、立派な能舞台「紫宸殿」が出迎えてくれた。かつてより、主要道路として多くの人が行きかったこの地域は、新古今集や万葉集、源氏物語など古い書物や能の演題にも多く登場しているため「後世にもこういった文化を残していきたい」という女将の思いから、改装時に能舞台をつくったそうだ。
こちらでは毎晩、二湖や三味線、和太鼓、人形芝居など「はな」をテーマにした伝統芸能が楽しめる。
そして京都より茂山狂言を招き、年に一度狂言会を開催し多くの人気を集めているそうだ。毎年、人間国宝である茂山千作もこの紫宸殿にあがっている。また「茂山狂言長野社中」と題し、月に2回茂山千三郎による狂言の稽古が行われている。年齢に関係なく、興味があれば子どもからお年寄りまで参加しているそうだ。(月謝9000円・月2回・定員15名)
大浴場手前には、お茶が飲めるようになっており、ビールやアイスの販売もされている。大浴場は「石神」と「清水」の2つがあり、24時を境に男女が入替えされている。どちらも内風呂と露天風呂があるが「清水」の方がやや大きな造りになっている。
印象的なのは、その浴槽だ。内風呂、露天風呂ともに青みを帯びた大きな岩でできている。これは先代の出身地が旧南信濃村であることから、その村の大きな岩を運び造らせたものだそう。大きな岩に体を寄せてお湯に浸かっていると大自然の中に身をおいているような、雄大な気持ちがする。
昼神に湧くお湯は単純硫黄泉。やわらかで、ゆっくり浸かると肌がしっとりとなる。女性には"美人の湯"といえるのではないだろうか。
大浴場横には「鬼ヶ宿」という家族風呂があり、内側から鍵がかかるようになっている。使用については予約不要で、鍵が空いていれば24時間いつでも楽しめる。家族風呂と言ってもなかなかの広さがあるので、ゆっくりと楽しもう。
また大浴場の脱衣所には貴重品入れや、替えのタオルもたくさん常備されている。マッサージチェアやCDプレイヤーもあるので、風呂上りにゆっくりと過ごそう。また大浴場を出るとすぐに第二ロビーがあるので、連れ合いを待つには最適だ。
「石苔亭いしだ」には全部で19の個性あふれる客室がある。
すべて違った演出でもてなしてくれるのだが、大きく分けると、半露天風呂、次の間付きでVIP感のある「結崎タイプ」「坂戸タイプ」(1室2名宿泊時1名分の宿泊料金 47,400〜円)。
その他は次の間やシアタールーム付きの「外山タイプ」(1室2名宿泊時1名分の宿泊料金 36,900〜円)。
広縁か土間付きの「円満井タイプ」(1室2名宿泊時1名分の宿泊料金 29,550〜円)の4タイプになる。
まず「結崎タイプ」は「靭猿」、「釣狐」、「庵梅」の3室。それぞれに間取りやインテリアは違うが、本間が10〜13.5帖。リビングルームが6〜10帖。半露天風呂に、広々とした洗面台がある。どの客室にも大きな窓があり、美しい庭園がゆったりと眺められるように。
「坂戸タイプ」は「花子」、「末広がり」、「福部の神」の3室。こちらも半露天風呂付きだ。福部の神のリビングルームは「信州の風を感じてもらえるように」と、窓がなくダイレクトに庭園につながっている。こういった演出は他の客室でもウッドデッキを設けるなど随所になされている。
「花子」はリビングベッドルームが洋室になっており、半露天風呂に面している庭園には先代が愛用していた「クラシック・ルノー」が置かれている。こちらは改装する際、62歳女性をターゲットに設定し、よく「石苔亭いしだ」を利用する宝塚OGの方に意見をもらったそうだ。以前、映画「母べぇ」(2008年公開/出演:吉永小百合、浅野忠信)のロケで長野を訪れていた吉永小百合さんもこの部屋に宿泊している。
「外山タイプ」は「賽の槌」、「財宝」、「麻生」、「三本柱」、「蝸牛」の5室。それぞれにシアタールームがあったり、隠れ家のような書斎があったりと、遊び心が散りばめられた客室になっている。
中でも55歳男性をターゲットに設定し改装したという「財宝」には、本間とシアタールームがあり、その奥には隠れ家のような書斎がある。こちらには「Olympus-35SP」、「Olympus-PEN」などのカメラやギター、戦車のプラモデルなど大人の男性心をくすぐる玩具が置かれている。戦車のプラモデルは500円で販売している。子供の頃に戻ったように、プラモデル作りに挑戦してみては。ここではプラモデルを作る際、製作途中であっても宿で預かってくれるリザーブシステムがある。また次回、宿泊した際に引き続きプラモデル制作ができるので便利だ。この客室には過去に歌手の西城秀樹さんも宿泊し、ギター演奏などを楽しんだそう。
もっともベーシックな客室タイプになる「円満井タイプ」は「伊呂波」、「土筆」、「柑子」、「寝音曲」、「花争」、「萩大名」、「止動方角」、「千鳥」の8室。
8〜15帖の本間に広縁がある。また「千鳥」にはシアタールーム付き。
どの客室にも一風変わった名前がつけられているが、これらは全て狂言の演目の名前になっている。また客室のネームプレートや、狂言の演目での台詞がかかれた掛け軸などは、話題の若手書道家、中塚翠涛(なかつか すいとう)によるものだ。和の趣がありながらも、粋でモダンな空間が演出されている。
「石苔亭いしだ」の料理は一年間で24回、献立が変わる。料理に季節感を出すために旬の食材や、気候にあわせた味付けをするためである。取材に訪れたのは、8月の終わり。この日の夕食は「処暑」の献立であった。
料理は部屋タイプと利用人数によって、部屋食か個室会席場食かが異なる。テーブルに敷かれたお品書きも書道家、中塚緑涛によるもの。24季節全て違ったデザインになっていて、とてもおしゃれだ。
まず先付は自家製のピーナッツ豆腐に蟹、キャビアを添えた一品。
前菜は細長いプレートに上品に並べられた6品。「槍烏賊このわた和え、いちじく生ハム巻き、梅貝大船煮、穴子棒寿し、萩茶巾、葛柿・小倉」ひとつひとつ、どれも手が凝った料理である。また地物の食材を中心にしながらも、名古屋、三河から仕入れた新鮮な魚介類や、香りのよい四国・徳島のすだちを使うなど季節の素材をうまく取り入れているように感じた。
お椀は松茸や才巻海老の土瓶蒸し。「造り」は鮪、平目、甘海老。この造りは「海の造り三点盛り」か「山の造り三点盛り」のいずれかが選べる。ちなみに山の造りは馬刺し、岩魚など。 しかし、先ほどの前菜もそうだが、信州なのに魚が新鮮でおいしい。料理長に聞くと、信州といえど昼神は南信になり、名古屋までわずか1時間ほどの距離。それで三河の新鮮な魚介類を毎日ふんだんに仕入れることができるそうだ。なるほど。南信州ならではの魚事情である。
次に凌ぎとして「狂言おまわり」。これは小かぶのそぼろ味噌、赤飯蒸し、煮アワビ、名古屋コーチン茶碗蒸しだ。この茶碗蒸し、中には何も具材が入っていないシンプルなもの。それは、名古屋コーチンの卵の甘みを充分に味わってほしいという料理長のこだわりである。茶碗蒸しの濃厚なうまみを堪能しよう。
焼物は信州牛塩釜焼きだ。これは料理長自らが客席で切り分けてくれる。一見、パンのようにも見える塊を、鮮やかな手つきで料理長が包丁を入れる、すると中からは香ばしい香りとともによく焼けた信州牛が。これは塩に小麦粉を混ぜたものを塩焼きにしている。切り分けられた信州牛は、そのまま食べると、絶妙の塩加減で肉本来の甘みが味わえる。好みで、ほうれん草のソースも。
強肴はすずきと松茸の昆布蒸しだ。器の底にお湯を入れ、ほどよく蒸された頃合にいただく。器をあけると昆布と松茸のいい香りが楽しめる。ちなみにすずきと松茸を巻いてある昆布も全部食べられるそうだ。
煮物は地物の南瓜や隠元、小芋を使っている。蛸は小豆で煮ており、驚くほどやわらかく仕上がっている。酢物は毛蟹のむしりだ。
最後に食事として鮎ぞうすいか、れんげ米と赤だしのいずれかが選べるようになっている。ちなみにこのれんげ米は田を刈り取ったあとれんげを植え、豊かな土地で無農薬で育てられたお米だ。「石苔亭いしだ」では旅館で出すお米を選ぶ際にスタッフみんなで目隠しをして、一番おいしいと思ったお米を投票してもらい決めたそうだ。多くのブランド米もあったが、選ばれたのは無名ながらも信州あずみ野でそだったこのれんげ米だったそうだ。
デザートは「いしだのケーキ」が出される。お酒を使ったケーキの他、豆腐やくるみ、桃といった季節の果物を使用したオリジナルケーキ4種から選ぶことができる。
夕食の献立は部屋タイプによって異なる。ちなみに取材したのは「結崎」「坂戸」「外山」タイプのもの。
夕食を済ませたあと、客室に運ばれるのはお夜食だ。
「結崎タイプ」の客室では「野沢菜のおにぎり」と「あんみつ」だ。夜食は部屋タイプによって異なる。
朝食は和食の「短歌膳」「俳句膳」、そして洋食メニューと3つの中から選ぶことができる。
まず、「短歌膳」とは5、7、5、7、7、を足した31の数だけ料理がだされるお膳。ずらりと並んだお皿に圧倒されるであろう。色とりどりのお膳は見た目にも楽しい。一皿は一口程度ではあるが、31ともなるとなかなかの食べ応えである。
ちなみに取材日の献立は「京都黒七味、淡路島藻塩」、「阿智村フルーツトマト」、「オレンジヨーグルトかけ」、「ナタデココ」、「陳さんの杏仁豆腐」、「上州こんにゃく味噌煮」、「阿智村小松菜胡麻和」、「北海道産イクラ醤油漬」、「信州干し大根しそ巻き」、「信州野沢菜」、「上村二度芋田楽鎌倉さん仕上」、「清内路薄揚げ葱みそ焼」、「答志島鰆西京焼」、「野菜の筑前煮」、「伊那豆腐」、「阿智村蓮根白煮」、「千代幻豚角煮」、「かつおもろ味噌」、「まぐろアボガド和」、「安曇野わさび漬」、「小田原かまぼこしそ梅」、「能登産岩のり」他、季節のもの7皿、ご飯、お味噌汁で合計31皿。
「俳句膳」は短歌膳に比べて皿数は少ないものの、焼き魚や季節の煮物が付くので食べ応えがある。「小さな皿ばかりでは物足りない!」という男性の方に人気だそう。
取材日献立は「京都黒七味、淡路島藻塩」、「阿智村フルーツトマト」、「陳さんの杏仁豆腐」、「上州こんにゃく味噌煮」、「北海道産イクラ醤油漬」、「信州干し大根しそ巻き」、「上村二度芋田楽鎌倉さん仕上」、「清内路薄揚げ葱みそ焼」、「まぐろアボガド和」、「富山槍烏賊ホタル黒漬」、「能登産岩のり」他、季節のもの2皿、ご飯、お味噌汁、季節の煮物、焼魚など合計17皿。 なお「短歌膳」。「俳句膳」ともに名古屋コーチンの初産の卵が付いている。新鮮でぷりっとしている卵はあつあつのご飯にかけて卵かけご飯としていただこう。
洋食メニューでは、パン3種類、サラダ、ソーセージ、ベーコン、阿智村のほうれん草、スープ、オムレツ(あるいはスクランブルエッグ)。ドリンクはオレンジジュース、コーヒー、紅茶、ミルク、トマトジュースの中から選ぶことができる。
洋食メニューに関しては料理長が東京、赤坂にあるレストラン「オー・プロヴァンソー」の中野シェフに監修してもらっているそうだ。
能舞台「紫宸殿(ししんでん)」の前はフロントとロビーになっている。自然光が降り注ぎ、館内のあちこちでは季節の草花が生けられている。大きな中庭をぐるりと囲むように廊下を歩くと、大浴場と、第二ロビーが現れる。第二ロビーは庭園に向かうようにしてテーブルと椅子が置かれ、その背には大きな本棚がある。多くの書籍から手塚治虫の漫画まで幅広く揃っていた。
フロント横にあるのはシアタールーム「菌」。こちらは「夫婦がもう一度デートに誘えるような空間を」というコンセプトで作られた貸切シアタールームだ。大きなスクリーンと、大きなベッドがあり、寝転びながらお気に入りの映画が楽しめる。DVDは60年代のものから最新の映画まで数多く揃っているが、二人の思い出の映画のDVDをあらかじめ用意しておいてもいいかもしれない。隣にはスパルーム「花折」がある。こちらはフェイシャルからボディ、リフレクソロジー、ヘッドなど多くのメニューがある。
2008年9月1日よりTBSで放送されているドラマ「愛の劇場 温泉へGo!」(2008年放送、出演:加藤貴子、池内淳子、大鶴義丹/月〜金 13:00〜13:30)のロケは、ここ「石苔亭いしだ」で行われた。
人気ヒロイン椎名薫(加藤貴子)が老舗旅館「御宿さくら」に仲居として派遣されることから始まる、男女6人のヒューマンドラマだ。
「石苔亭いしだ」は物語の舞台となる「御宿さくら」としてロケに協力している。ドラマの中にも能舞台や美しい庭園が映し出されるので必見だ。実は2004年には、「温泉へ行こう5」でも、この宿が舞台で撮影された。その縁で再び新ドラマに協力することになった。第二ロビーには当時の出演者やスタッフからの寄せ書きが飾られている
朝、旅館の専用駐車場を出たすぐの路地には朝市が開催されている。ここでは地元の新鮮な野菜や果物。漬物、リンゴジュース、手作りケーキなどが販売されている。お土産探しにちょうどいいかもしれない。朝市には地元の人や宿の浴衣姿の観光客などでにぎわっていた。朝6時から始まり8時頃には撤収が始まってしまうので早起きして出かけてみよう(11月〜3月は6:30〜8:00)。また昼時には「ふるさと食堂」でそばが食べられる。
「石苔亭いしだ」がオススメするお土産はオリジナルのカステラ「いしだのかすてら」やオリジナルの限定てぬぐいなど。切子の酒器などもある。売店向かいには、「HARNN」のショップがあり、こちらではシャンプーやボディソープなどのほか、体にやさしいハーブティーなども販売されている。
タイ発のブランドで、欧米27カ国で愛されている「HARNN(ハーン)」は香りや使い心地もよいので、ギフトにしても喜ばれそうだ。
ここで過ごす一日は「温泉宿でのんびり」というものだけでなく、シアタールームでの映画や、能舞台での伝統芸能、そして客室や館内には季節の草花や、カリグラフィーデザイナー中塚翠涛(なかつかすいとう)さんの粋な文字、客の目の前で切り分けられるパフォーマンスなど、エンターテイメントの要素を強く感じる。そういった、徹底されたもてなしの心を、この「石苔亭いしだ」に吹き込んだのは若き社長、逸見尚希(へんみ
なおき)氏だ。
逸見さんは少し変わった経歴の持ち主だ。
地元、長野で小学校教師をしていた逸見さんは、「石苔亭いしだ」の娘であった貴子さんに出会う。
8年の交際を経て結婚した逸見さんは10年勤めた教師をやめ、ホテルでの接客業を学ぶために専門学校へ通い、さらにサービスを学ぶために1年間、ディズニーランドのクルーとして働いた。
そして、二人は新しく「石苔亭いしだ」の若旦那、若女将となるが、いざ働き始めると「お客様の都合ではなく、仲居や調理場の都合を優先しがちな仕事の流れ」に疑問を感じはじめる。
「本当にお客様の立場を考えた接客やサービスをしたい」と考えた彼は、自分の思いをスタッフにぶつけてみた。
旅館をついで数日しか経っていない若旦那の率直な意見は、古くから勤める仲居や調理場の反発を買うことになる。
辞めていくスタッフもたくさんおり、一時は前オーナーからクビを宣告された事さえあったそうだ。
しかし、彼の熱い思いに共感した理解した一部のスタッフたちが、「若旦那(逸見さん)が辞めるなら私たちも辞める」と言って彼を引き止めたという。
その後、逸見さんは前オーナーに理解を得つつ、若いスタッフを中心に「石苔亭いしだ」のおもてなしを創りあげていった。「金八先生」や「教師ビンビン物語」に憧れて教師になったという彼らしく、教師の手腕を活かして、この宿ならではの真のおもてなしを創り上げていった。
そして、晴れて社長に就任した彼は、この宿に5つのこだわりを植えつけた。
まずひとつは「南信州ならではの会席料理」。
2つめは、前に触れたが、料理にはスタッフみんなで選び抜いた「れんげ米」を取り入れている。スタッフ自身が自分たちで「美味しい、使い心地がよい」と感じて選び抜いているので、自信を持ってお客様に出せるのだ。
3つめは毎晩、夢とうつつの世界を演出してくれる能舞台「紫宸殿」での宴。
4つめは「美味しいコーヒー」。この館のコーヒーは、清内路の湧き水を汲み、3時間かけておとす水出しコーヒーをだしている。酸味がなくまろやかな味わいだ。
5つめは、館内で使用するボディーソープやシャンプーも「本当に良いものを」と使い心地のよい「HARNN」のものを使用。
さらに、そういったひとつひとつのこだわりが、ここで過ごす休日をより印象深く演出しているのではないだろうか。「サービスとは何か」を徹底して考え、実践してきた「石苔亭いしだ」の魅力を感じてもらいたい。
現在、逸見社長は昼神の町全体でのおもてなしを考えている。「神ぐ和しの里プロジェクト」に参加し、ここを訪れた人たちに昼神の魅力を伝えようと、日々奮闘中だ。
昼神の名前の由来にもあるように、この土地は神様と縁のある昔話が多く残されている。自然を恐れ、自然に感謝し、自然とともに生きていく。日本古来からのスタイルが今は祭りや季節の行事として多く伝えられてきたこの昼神で、地域の宝であるお湯を楽しみ、そして豊かな食材を堪能し、"神ぐ和しの里"を堪能したい。
お客にとって、「いい宿」「過ごしやすい宿」とは何なのか・・・を考えると、それは宿側、スタッフ側に負担がかかるようになってしまう。
実際、この宿では少しでも寛いでいただこうと、数年前からチェックアウトを13時(!)とした。
チェックインが15時だから、掃除をする時間はたった2時間しかない。
これは温泉旅館の"常識"からすると、考えられないことなのだ。
通常の旅館は「掃除」の時間と、スタッフの「休憩」の時間を考えて、10時チェックアウト、15時チェックインのスタイルが多い。
これは、お客よりというよりも、スタッフ、宿よりの都合のタイムテーブルとなっている。
ところが、前述のように、逸見社長はその常識を覆し、ホテル並みのスタッフシフト制をしいて、この「チェックアウト13時」を実行してしまったのだ。
従業員がいつも同じメンバー、従業員が辞めない宿は、お客よりではなく、宿よりの宿・・・そんな風にも思えてしまう。
なぜなら、簡単に言えば、宿(従業員)の都合のタイムテーブルなら、"楽"だからだ。
「石苔亭いしだ」はその"宿側の都合" をやめた。
口先だけの「お客様第一」主義でなく、ホンモノの「お客様第一」を創り上げた。
こんな「お客より」の宿はなかなか見つからない。
それでいて、大衆的な匂いもなく、雅な空間の中にゲストを遊ばせる、寛がせるスタイルは見事なものだ。
能舞台という、和のシンボル的なものもあれば、寝転んで鑑賞できる貸切のシアタールームから、大人の遊び心をくすぐる客室など、洋のテイストも散りばめられていた。
この和と洋のバランスを非常に上手くアレンジしているところが、この宿の最大の特長なのかもしれない。
全室にインターネットPC付きのテレビを置くなど、メジャーなシティーホテル並みのこだわりもいい。
旅館に泊まりながら、ホテルのようなプライバシーが保て、そして極上の温泉に入れる・・・。
日本人はなんと贅沢な人種だと思ってしまう。
そんな感情を抱かせてしまうのが、この宿なのだ。
長野県といえどもここは南信州エリア。首都圏よりも名古屋はじめ中京地区の客が多いという。
首都圏、東京の旅行者は、この「石苔亭いしだ」を見落としているのではなかろうか。
宿の中に能舞台があるというだけで、この宿のアイデンティティを感じるが、それだけではない、数々のお客を楽しませる「仕掛け」が用意されている。
ぜひ、あなたもその「仕掛け」を見に、この宿に出かけてはいかがであろうか。(J/YU)