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山代温泉は、石川県というより、北陸一帯でも大きな温泉街として知られている。
古くは行基により発見されたこの地は、開湯1300年の歴史を重ね、江戸時代は前田利家を藩祖とする加賀藩の藩湯として栄えた。共同風呂「山代温泉御殿」は藩政時代から続く共同風呂である。
明治以降は、与謝野晶子、泉鏡花、北大路魯山人をはじめ、多くの文人墨客が訪れた。
また、歴史資産も豊富で、例えば、北大路魯山人の寓居跡は現在、「いろは草庵」という名前で残っており、山代で作られた作品が展示されている。「はづちを楽堂」は、温泉街の中心にある昔懐かしい紅柄格子風の木造建築オープンスペースとなっており、温泉街散策の溜まり場にもなっていて、様々なイベントも催される。
そして、山代温泉といえば、やはり「九谷焼」。九谷焼とは、加賀藩の支藩、大聖寺藩領の良質の陶石が発見された九谷村(現在の石川県加賀市)で、1655年頃、藩の殖産政策として、スタートしたが発端。技術的なことは、藩士の一人を有田焼の窯元(現在の佐賀県有田町)へ出向かせた事から始まったわけであるが、約50年後(18世紀初頭)突然廃窯となる。
古九谷廃絶後百年を経た文政6年(1807年)、吉田屋伝右衛門が、古九谷再興を企てて、九谷の古九谷窯跡の横に吉田屋窯を開窯したが、奥地の九谷村は雪深く交通の便も悪い事から、文政9年(1810年)、立地条件のよい山代温泉に移築された。これが山代再興九谷焼の始まり。九谷焼の上絵付けは、赤・緑・黄・群青・紫の5色を使うので五採手と言われている。
その九谷焼をギャラリーに数点展示しているのが、ここ「温泉めい想倶楽部 富士屋」。文化的な香りを漂わせるこの宿には、九谷焼だけでなく、松井勝彦氏(青ノ木窯)の越前焼の作品などをはじめ、地元の作家による陶芸作品が数多く置かれていた。壁面の展示コーナーにはオーナー自ら全国から集めた酒器コレクションも見ることができ、なかなか楽しめる空間になっている。
宿名に「めい想」と付くのは、とてもユニークと思うが、これは“癒しの自由空間と人間回帰”をテーマにした宿づくりを実践しているからとの事。
建物に入り、ロビーに通されると、そこは大きな吹き抜け状の、開放感溢れるスペースが広がっていた。温泉宿とは思えない洒落た雰囲気と、それでいて和めそうな空気感は、なるほど、ここのソファに浴衣で座って、目を閉じながら自然に耳に入ってくるジャズの調べに身を委ね、時間を過ごすのもいいかもしれない・・・と感じる。
そのロビーから2階を眺めると、そこには蔵書3,000冊をゆうに超えるというライブラリーがあった。百科事典、美術書、小説、ベストセラー書、子供用の絵本、雑誌・・・とあらゆるジャンルの書籍が並んでいた。ここで、やはり居心地の良さそうなソファに座って、好きな本を読みふけるのもいいかもしれない。
温泉は、「一の湯/薬師の湯」「二の湯/五彩の湯」「三の湯/庭園露天風呂」「四の湯/御影石の湯」「五の湯/檜の湯」と数字の付いた湯舟が5つあった。
大きい「一の湯」と「二の湯」は男女別大浴場。泉質は「ナトリウム・カルシウム−硫酸塩・塩化物泉」。肩こり、神経痛はもちろん、美肌効果にも優れた無色透明な温泉は、昔から変わらず、多くの人々を癒している。
「三の湯」の露天風呂と「四の湯」「五の湯」の内風呂は、チェックインから21時までは貸切風呂として利用。それ以降は男女別浴場となる。それぞれ個性的な湯舟なので、できれば全てに入ってみたい。
客室は、全35室。すべて和室となっているが、広々とした間取りが多いのも、この宿の特徴。最上階の「じぶ 亭」には、10帖の主室に8帖の和風ダイニングテーブルがある客室もある。山代温泉の街中を見下ろすようなダイナミックな眺望も魅力的だ。
そして、やはり人気があるのは露天風呂付き客室である。例えば、客室「響」は、広々としたオープンテラスに、檜と小さな陶器の2つの湯舟の露天風呂を持つ。間取りも10帖+4.5帖+次の間の和室となっており、豪華だ。
一般客室も12.5帖が一番多く、ゆったりとした時間を過ごせるだろう。
料理も、この宿は期待を裏切らない。取材時(2007年11月上旬)のメニューをここで紹介しよう。
夕食、朝食ともお部屋でいただく。
前菜は、サザエの白和え、さんま煮、蓮根センベイ、小鯛(石川県・橋立港で水揚げ)、梅肉和え(ニラとしめじと梅肉)、真丈(たらなど白身魚のすり身)、ささ身海苔巻き、丸十(さつまいも)。
お造りは、サザエ、甘海老(橋立港)、カンパチ、鯛、生うに(北海道)。
煮物は、治部煮(じぶに)。これは、加賀の前田家ゆかりの郷土料理。「じぶじぶ」と煮立てるからこの名が付いた。かも肉、麩、焼き豆腐、葱、エリンギが入り、わさびを添える。極上の味わいであった。わざわざ、この「富士屋」のじぶ煮を食べにくるリピーターも多いと聞く。夏はこれを冷して食べるらしいが、これも実に美味しいらしい。
蒸しものは、フカヒレ茶碗蒸し。これもイケル。
次は待望の、温泉蒸しのズワイガニ。食感がなんとも贅沢。冬の逸品だ。
焼物は、のどぐろ塩焼き(橋立港)にイクラみぞれ和え(北海道)。それに、こんにゃく田楽が付く。
のどぐろは日本海で獲れる、焼き魚としては最高の魚と言われているもの。九谷焼の器も見事だ。
強肴は、牛ステーキ(国産和牛)。
酢の物は、加賀野菜とカニの生ハム巻き(ミョウガ、なす、シメジなど)。
ご飯は能登の黒米(こくまい)。古代米の一種だ。赤だしにはわかめ、ネギの他、魚のすり身で作った麺、「魚(ぎょ)めん」も入っていた。デザートはみつ豆。白玉が美味しかった。
夕食時にぜひいただきたいのが、地酒の利き酒セットだ。
「手取川 吉田蔵大吟醸」「菊姫 山廃純米」「加賀鳶(かがとび) 純米吟醸」「天狗舞 石蔵仕込」の4種の地酒を堪能できる。
各種サービスも充実している。
まず、この宿のアロマエステは客室に出向くスタイル。メニューは、全身デトックストリートメント60分が\10,000−、全身デトックストリートメント+フェイシャル90分が\14,000−、フェイシャル+フットマッサージ60分が\10,000−となる。カップルプランもあり、女性が全身デトックス60分、男性が背面マッサージ30分もしくはフットマッサージ30分を選択して\14,000-というものだ。
ロビーの奥には「湯上がりサロン」がある。カウンターでお風呂上りにビールをいただくのも良さそうだ。
また、3ヶ月に1回のペースで、このロビーにてジャズライブを行っているとの事。告知は公式HPの若女将ブログで突然紹介されるので要チェックだ。
さらに、この宿には卓球台が新設された。ロビー2階の一角に備えられたが、嬉しい事に料金は無料との事。
そして、レンタルサービスもある。客室で遊ぶボードゲームなどの他に、加湿器・ズボンプレッサー・アイロン・電気ポット・哺乳ビン消毒セット・観光情報誌もある。
変わったところでは枕のレンタルもしている。羽根(普通or柔らかめ)、テンピュール、磁気、ソバ(高いor低い)・・・と種類も豊富だ。
記念日旅行にも、この宿は相談にのってくれる。ご結婚やお誕生日などの記念日にケーキ、ワイン、花束の用意や、還暦や喜寿などのお祝いでのご宿泊時には、ちゃんちゃんこや座布団のご用意をもしてくれる。
旅の思い出作りの演出も、安心して任せられるということだ。
お土産は、「奥能登 天然塩」「温泉玉子」、そして、能登北村農園の自然栽培の「富士屋オリジナル紫黒米」が人気だ。
大規模な温泉旅館も多い山代温泉で、この「温泉めい想倶楽部 富士屋」は、非常にユニークなポジションにいる宿とも言える。
客室が少ない、隠れ家的な宿の一面を見せながらも、客室数35室のキャパを利用してのグループ旅行にも耐えうる施設も持ち合わせている。
しかしながら、基本は2〜4名程度の個人旅行客が多い。そしてその客が求めているのは、はたしてこの宿の大人っぽさなのか、静けさなのか・・・。夏休みならともかく、小さな子供がロビーを走り回るといった絵は、この宿には似合わないのは確かだ。
ロビーはどちらかというと洋風な佇まいだが、客室は純和風といった、ギャップも楽しめる宿ではある。これは、まさに和と洋をバランスよく融合させた、ある意味成功した例かもしれない。
この宿に興味を持ったら、是非公式HPからのネット予約をオススメする。理由は簡単、特典が多いからだ。例えば、女性限定だがカラフル浴衣を無料でレンタル。そして貸切風呂が半額で利用できる。さらに利き酒セットがなんと無料・・・といったサービス満点のネット予約特典(2008年1月現在)なのだ。
ただ、このHP特典は、不定期に変更するので、予約する際はよく公式HPをチェックしたい。
「温泉めい想倶楽部 富士屋」のチェックアウトは朝11時。ゆったりと過ごすにはやはりこの時間は嬉しい。とにかく時間に追われる生活から逃れて、少しリセットしたいなら、この宿はいい。“めい想”でも“空想”でも、「富士屋」は必ず、サポートしてくれるはずだからだ。(J)
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